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迷走した寝屋川事件のあっけない結末

2020.12.01ブログ

 

1 これまで,「死刑判決を受けた被告人自身による控訴取下げの有効性(寝屋川事件)」「迷走する寝屋川事件の行方」という2つのブログを書いて,この事件に着目してきました。
 これに対し,2020年11月26日大阪高裁第6刑事部(村山浩昭裁判長)決定が,取下げは「有効」という判断を示したので,今回はこの決定(以下,「本決定」といいます。)に少し触れてみたいと思います。

2 これまでの経緯を,少しおさらいをしてみましょう。
 もっと詳しく知りたいという方は,上記2つのブログをお読みください。
 事の発端は,2018年12月19日に大阪地裁が言い渡した死刑判決に対し,被告人が,1度は控訴したものの,2019年5月18日に自ら控訴を取り下げてしまったことに始まりました。
 この取下げにより,本来は,被告人に対する死刑判決が確定するのですが,弁護人は,これが「無効」であると争いました。
 すると,2019年12月17日,大阪高裁第6刑事部(村山浩昭裁判長)が,取下げは「無効」と判断したのです(以下,「村山決定」といいます。)。
 その理由は,被告人の訴訟能力が著しく欠けていたとまでは認められないが,当時の状況を見た時に,直ちに死刑を確定させることには「強い違和感と躊躇」を覚えるというものでした。
 そのため,これを不服とした大阪高等検察庁は,大阪高裁に異議を申し立てるとともに,最高裁に特別抗告を申し立てました(特別抗告は棄却)。
 これに対し,大阪高裁第1刑事部は,検察の主張を容れて,村山決定を取り消し,審理を大阪高裁第6刑事部に差し戻したのです。

3 本決定は,この差戻審における判断ということになります。
 村山決定という画期的な判断を示した村山裁判長が,どのような判断をするのかについては,筆者も注目していました。
 ところが,村山決定後,本決定までの間には,2020年3月24日に被告人が再び控訴取下げを求める書面を拘置所に提出するという,おそらく誰もが予測していなかった出来事が起こっていました。
 そうなると,さすがの村山裁判長も「強い違和感と躊躇」は覚えなかったようで,本決定においては「取り下げの意思は明確」であるとして,あっさり,取下げは「有効」と判断してしまいました。

4 なお,村山決定を取り消した大阪高裁第1刑事部の前記決定には,弁護人が特別抗告を申し立てていましたが,2020年6月17日に棄却されています。
 そのため,今後,本決定に対する異議申立てが通らなければ,被告人に対する死刑判決は確定することになります。
 結局のところ,この問題については,被告人が2度目の取下げをしたことで,自ら幕引きしたのではないかと,筆者は感じています。
 なんともあっけない事件の幕引きです。

 

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★