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迷走する寝屋川事件の行方

2020.04.27ブログ

 前回は,寝屋川事件で死刑判決を受けた被告人が控訴を取り下げたことに対し,最高裁が興味深い決定を下したことについて紹介しました。
 この決定の後,被告人による控訴取下げを無効として控訴審の訴訟手続を再開・続行を命じた大阪高裁刑事6部(村山浩昭裁判長)の決定(以下,「村山決定」と言います。)に対しては,①大阪高裁刑事1部が,大阪高検の異議を受け入れて村山決定を取り消し審理を大阪高裁に差し戻す決定(以下,「差戻決定」と言います。)をしており,②弁護人が,差戻決定を不服として最高裁に特別抗告をしています(詳しくは,コラム「死刑判決を受けた被告人自身による控訴取下げの有効性(寝屋川事件)」をご覧ください。)。

 ところで,通常,被告人による控訴取下げが「無効」とされる場合としては,その精神障害等により被告人の訴訟能力(訴訟の意味を普通に理解して自己の権利を守ることができる能力)が著しく欠けている場合が典型例として挙げられ,寝屋川事件でも,その点が問題とされていたようです。

 しかし,村山決定は,被告人の訴訟能力が著しく欠けていると認められるような精神状態にはなかったと判断しました。
 その上で,村山決定は,刑務官とのトラブルにより自暴自棄になっていた被告人の言動等みると,被告人には死刑判決を受け入れようとする心情が見受けられず,直ちに死刑判決を確定させることには「強い違和感と躊躇」を覚えるとして,被告人による控訴取下げを無効としました。
 これに対し,差戻決定は,「強い違和感や躊躇」は無効の根拠とは言えず,これを根拠に無効を認めることは法解釈の枠を超えているとしました。その上で,差戻決定は,改めて被告人の心理面に対する専門家の判断を聞くなどして,被告人の「訴訟能力」が著しく制約されていたかを見極めるべきであるとして,村山決定を取り消したのです。

 このように,差戻決定は,村山決定の事実認定そのものではなく,村山決定の判断姿勢について「法解釈の枠を超える」と批判しています。
 おそらく,多くの法律家は,差戻決定の考え方が正論であり,村山決定は「情緒的(=理論的でない。)」であると批判するのではないかと思います。
 ですから,差戻審においては,被告人の訴訟能力が著しく制約されていたと判断できるような新たな証拠が出ない限り,被告人による控訴取下げは「有効」と判断され,寝屋川事件は確定する可能性があると予測されます。

 しかし一方で,死刑判決は,もし確定して執行されてしまえば,あとでえん罪だと判明しても取り返しがつかない,究極の刑罰です。
 ですから,もし死刑判決を確定させるのに「強い違和感や躊躇」を覚えたのであれば,直ちに確定させずに控訴審の審理を再開させるべきであるという考え方も,ひとつの立派な見識と言えます(ちなみに,アメリカ合衆国には,死刑判決が下された場合,本人の意思に関わりなく自動的に控訴が行われなけれなければならないとされる,スーパー・デュー・プロセスという制度もあります。)。

 そこで注目したいのが,弁護人が申し立てた特別抗告の行方です。
 最高裁が,被告人の控訴取下げに対しどのような判断・姿勢を示すのかを,注意深く見守っていきたいと思っています。

 

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★