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検察官が行う再犯防止支援(入口支援)の問題点について

2020.07.28ブログ

1.検挙された人員に占める再犯者の割合を「再犯者率」と言います。
  刑法犯で検挙された人の数を見た場合,再犯者の数自体は減少傾向にありますが,同時にそれを上回るペースで初犯者の数も減少していることから,再犯者率は,平成9年以降一貫して上昇し続け,平成30年の再犯者率は,平成期では最も高い48.8パーセントになりました。また,日本で最も多く出回る違法薬物とされる覚せい剤取締法違反で検挙された人の数を見た場合,同じ覚せい剤取締法違反で検挙された再犯者率は,平成10年から上昇傾向にあり,平成30年の再犯者率は,平成期で最も高い66.6パーセントが記録されています。【「令和元年版犯罪白書:第5編/第2章/第1節」参照。犯罪白書はインターネットでも公開されています。】。
  このような再犯者率の高さと増加傾向から,犯罪者の総数を減らすための有効な手段として,「再犯防止」が国の重要課題のひとつと捉えられてきました。そして,平成15年以降,政府が開催する犯罪対策閣僚会議が示す行動計画や基本方針に沿った多様な再犯防止施策が検討・試行されてきました。そして,平成28年12月7月には,再犯防止推進法が成立し(同月14日施行),再犯防止のための司法,更生保護及び福祉等の多機関連携や,犯罪を犯した者等の特性を踏まえた指導や支援,就業機会や住居の確保,医療及び福祉サービスの提供といった,さまざまな施策等が本格的に実施されることになりました。【「令和元年版犯罪白書:第5編/第1章」参照】

2.ところで,従来,社会復帰支援は,刑務所等の矯正施設からの「出所者」に対する就労支援や住居等の確保に主眼が置かれ,その担い手の中心は保護観察所でした。
  これに対し,再犯防止推進法は,犯罪を犯した者のうち,起訴猶予処分等により刑務所等の矯正施設での処遇を受けないこと(刑務所等への服役の回避)が予定される被疑者等に対しても,再犯防止のために必要であれば,国の責任で積極的な社会復帰支援を行うことを求めています(なお,再犯防止推進法が,刑務所等への服役の回避が予定される被疑者等として予定している者は,起訴猶予処分が予定される被疑者だけではなく,略式命令により罰金刑に処せられることが予定される被疑者,起訴されても刑事裁判で刑の一部又は全部の執行猶予が予定される被告人などがいますが,以下,本稿では,起訴猶予処分が予定される被疑者を念頭に置くこととします。)。
  ちなみに,刑務所等からの出所者に対する社会復帰支援が「出口支援」と呼ばれるのに対し,起訴猶予処分予定者に対する社会復帰支援は「入口支援」とも呼ばれています。
  刑務所を長い迷路のようなトンネルに例え,そのトンネルに迷い込む前の「入口」での支援と,ようやくそのトンネルから抜け出た「出口」での支援と考えると,わかりやすいかも知れません。

3.入口支援の中心的担い手として期待されたのが,被疑者の起訴・不起訴を決する権限を独占する検察官でした。
  そのため,最高検察庁は,犯罪対策閣僚会議の行動計画や基本方針を受けて,平成24年6月に「刑事政策専門委員会」を立ち上げ,平成28年6月には「刑事政策推進室」を発足させて,各地の地方検察庁への入口支援担当職員の配置を推進するなどの施策を講じてきました。一方,地方検察庁は,その組織の規模,事件数及び人的資源等の各自の実情に応じて,保護観察所等の更生保護機関との連携,地域定着センター等の福祉機関との連携,社会福祉士等の専門職員との連携や雇用等を推進してきました。【「平成30年版犯罪白書:第7編/第5章/第3節/コラム11」には,その一例として,東京地方検察庁の取り組みが紹介されています。】
  また,法務省のホームページには,「検察における再犯防止に向けた取組」が紹介されており,ここでは,「検察官は,再犯防止や罪を犯した者の更生の視点ももって,証拠を収集し,起訴・不起訴を判断し,裁判における立証や求刑を行います。」などとも紹介されているのです。
  実際,近時,検察官が,起訴猶予処分が予定される被疑者に対し,保護観察所や福祉機関と連携を採りながら住居や就労先確保を試みたり,家族等の関係者を呼び出して関係修復を促すような,積極的な入口支援を行おうとする事例が散見されます。

4.しかし,検察官による積極的な入口支援は,常に人権侵害の危険と表裏一体であることに注意が必要です。
  端的に言えば,検察官による入口支援は,被疑者が逮捕・勾留されている期間に行われることが多いため,「支援」の必要性が強調されるあまり,被疑者に対する不要な勾留が正当化されてしまうリスクを伴うことから,そうならないための不断の監視が必要なのです。
  すなわち,被疑者に対する勾留は,被疑者の起訴・不起訴を決する犯罪捜査のために必要最低限のものに限定されなければならず(捜査比例の原則),その上で,刑事訴訟法刑事訴訟法207条及び60条は,被疑者を勾留できる場合を,①定まった住居を有しない場合,②罪証隠滅の恐れがある場合,③逃亡の恐れがある場合に限っています。
  ところが,「支援」の必要性が強調されるあまりに,検察官が,刑事訴訟法を無視して,被疑者の勾留を継続しようとする危険が想定されるのです。
  以下,検察庁がアピールする二つの入口支援の紹介と【「平成30年版犯罪白書:第7編/第5章/第3節/1」参照】,その問題点を考えてみたいと思います。
 
⑴ 福祉・医療機関との連携について
  検察における入口支援の取り組みとして最も多く紹介されているのは,高齢などの事情により収入や住居がなく釈放後の生活状況が不安定であったり,認知症等の精神疾患の治療が必要と思われる被疑者に対し,社会福祉機関や医療機関等の関係機関と連携して,帰住先や入院先を確保する取り組みです。
  この取り組みに,再犯防止のための一定の効果があることは否定しません。
  また,特に,被疑者に住居がない場合,上記①の理由(定まった住居を有しない)で,刑事訴訟法上も被疑者の勾留が認められることが多いので,検察官が,その勾留期間を有効活用して被疑者の帰住先等を確保することは,被疑者の利益にもつながります。
  しかし,そうであったとしても,被疑者の起訴・不起訴を決するために必要不可欠なのかという視点から,不必要な勾留が正当化されないよう監視する必要があります。
  例えば,逮捕・勾留の基礎とされた事件の嫌疑が不十分であると判明した場合,勾留の理由及び必要性は消失しますから,被疑者は直ちに釈放されなければなりません。
  想定される典型事例として,ホームレスが生活のための調理用のナイフを所持していたに過ぎないのに(これは適法です),職務質問でナイフを見咎められて銃砲刀剣類所持等取締法違反で逮捕・勾留されてしまう場合があります。このような事例においては,検察官に対し,犯罪の嫌疑がないことを強く主張して即時釈放を求めていく必要があります。たとえ「支援」の必要があったとしても,犯罪の嫌疑が不十分である以上,勾留という形での身柄拘束は許されないからです。
  なお,更生緊急保護法85条1項6号等は,「訴追を必要としないため公訴を提起しない処分を受けた者」が,「(要旨)刑事手続による身体の拘束を解かれた後、医療、宿泊、職業その他の保護を受けることができないと認められる場合に、緊急に、その者に対し、金品を給与し、又は貸与し、宿泊場所を供与し、宿泊場所への帰住、医療、療養、就職又は教養訓練を助け、職業を補導し、社会生活に適応させるために必要な生活指導を行い、生活環境の改善又は調整を図る」ことを,国の責任として行うべきと義務付けています。
  したがって,この事例の場合であれば,直ちに被疑者を釈放して不起訴処分とした後に,その処遇を更生緊急保護に委ねれば(具体的には保護観察所に被疑者を引き渡せば)適切な支援が期待できるのですから,検察官に対し,「支援」の名の下の違法な勾留を継続するのではなく,更生緊急保護に委ねるよう強く求めていくべきでしょう。

⑵ 更生緊急保護の重点実施について
  これは,更生緊急保護法85条1項6号等による不起訴・釈放後の支援実施を念頭に置き,それを効果的に行うため,被疑者の勾留中から,検察官と保護観察官の連携を深めておこうとする取り組みです。
  実際には,不起訴・釈放後の更生緊急保護の実施が予定される被疑者について,その勾留中から,その生活歴等に関する情報を保護観察所に文書で提供するとともに,必要に応じて担当保護観察官が勾留中の被疑者と検察庁で面談する機会を設けるなどの取り組みが行われています。
  この施策が,更生緊急保護を効果的に実施するために有用であることは否定しません。
  しかし,被疑者の勾留期間を利用した取り組みである以上,⑴の場合と同様,「支援」の名の下の違法な勾留継続につながらないように監視する必要があります。
  特に,この施策に関しては,担当保護観察官との面談日程の調整ができないという理由だけで勾留期間が延ばされたり,保護観察所における受入体勢が整わないという理由だけで勾留期間が延ばされるような危険が想定されることから,そのような事態を阻止するための不断の監視が必要と思われます。

5.このように,検察官による積極的な入口支援に対しては,常に人権侵害の危険と表裏一体であるという視点での監視が必要ですが,そのためには,刑事事件に精通した弁護士の援助が不可欠です。
  弁護士が,弁護人として,担当検察官の意図や目的を見極めながら,法的知識を背景に検察官と強く交渉し,時には検察官に苦情を申し入れたり,場合によっては裁判所に勾留取消を求めるなどの地道な活動により,被疑者を不必要な身柄拘束から解放することが可能になるのです。

 

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★