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覚醒剤密輸事件の量刑について

2020.06.11ブログ

1 千葉県には,成田国際空港があるため,海外から日本に薬物等を密輸する事件が多くあります。密輸事件の対象は,覚醒剤,大麻,コカイン,ヘロイン等の違法薬物であることが多いですが,それ以外にも,金の密輸や動物の密輸など様々で,適用される法令も,刑の重さも全く違います。
 今回は,件数の多い,覚醒剤密輸事件の量刑についてご紹介します。
 なお,2020年4月1日より,「覚せい剤取締法」が「覚醒剤取締法」と改正されています。これは「醒」の字が常用漢字となったことに伴う法改正で,法定刑の内容について改正がされているわけではありません(改正前の事件については,「覚せい剤取締法」により処罰されますが,以下では改正前後を問わず「覚醒剤取締法」と表記します。)。

2 覚醒剤を密輸した場合,覚醒剤取締法と関税法という2つの法律に違反することになります。
 検察官が作成する起訴状の公訴事実に,次のような記載がなされます(想定しているのは,スーツケース内に隠匿した事例です。)。

「被告人は,氏名不詳者らと共謀の上,みだりに,営利の目的で,令和●年●月●日(現地時間),●●国所在の●●国際空港において,●●空港第●便に搭乗する際,覚せい剤合計約●●グラムが隠匿されたスーツケースを携帯して同航空機に搭乗し,同日,千葉県成田市所在の成田国際空港内の駐機場において,同空港に到着した同航空機から降り立って前記覚せい剤が隠匿されたスーツケースを本邦内に持ち込み,もって覚せい剤を本邦に輸入するとともに,同日,同空港内の東京税関成田税関支所第2旅客ターミナルビル旅具検査場において,同支所職員に対し,前記覚せい剤が隠匿されたスーツケースにつき,隠匿物があることを申告せず,自己の所有物であり,他人から預かったものではない旨うそをついて,同検査場を通過して輸入しようとしたが,同職員に前記覚せい剤を発見されたため,これを遂げることができなかったものである。」

 このような覚醒剤密輸事件で問題となる罰条は,
① 覚醒剤取締法については,同法41条2項,1項
② 関税法については,同法109条3項,1項,69条の11第1項1号
です(氏名不詳者らとの共謀が問題となるため刑法60条も罰条として記載されます。)。

 ちなみに,覚醒剤取締法違反については,飛行機から降り立った時点で密輸したと評価されるために既遂犯として扱われますが,旅具検査場で発覚して通過できない場合には関税法違反については未遂犯となります。

3 覚醒剤取締法41条は以下のとおり,覚醒剤を営利目的で密輸した者について「無期若しくは3年以上の懲役及び1千万円以下の罰金に処する」と定めています(無期刑が定められている関係で,裁判員裁判となります。裁判員法第2条)。

第41条 覚醒剤を,みだりに,本邦若しくは外国に輸入し,本邦若しくは外国から輸出し,又は製造した者(第41条の5第1項第2号に該当する者を除く。)は,1年以上の有期懲役に処する。
2 営利の目的で前項の罪を犯した者は,無期若しくは3年以上の懲役に処し,又は情状により無期若しくは3年以上の懲役及び1千万円以下の罰金に処する。

関税法109条及び69条は,次のとおりです。同法69条の11第1項1号で,覚醒剤を輸入してはならないことを定め,同法109条第1項が「10年以下の懲役若しくは3千万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する」と定めています。

第109条 第69条の11第1項第1号から第6号まで(輸入してはならない貨物)に掲げる貨物を輸入した者は,10年以下の懲役若しくは3千万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する。
2 第69条の11第1項第7号から第10号までに掲げる貨物を輸入した者は,10年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する。
3 前2項の犯罪の実行に着手してこれを遂げない者についても,これらの項の例による。

第69条の11 次に掲げる貨物は,輸入してはならない。
1 麻薬及び向精神薬,大麻,あへん及びけしがら並びに覚醒剤(覚醒剤取締法にいう覚醒剤原料を含む。)並びにあへん吸煙具。ただし,政府が輸入するもの及び他の法令の規定により輸入することができることとされている者が当該他の法令の定めるところにより輸入するものを除く。

4 上記のとおり,覚醒剤密輸について,覚醒剤取締法41条は,「無期若しくは3年以上の懲役及び1千万円以下の罰金」と定め,関税法109条は,「10年以下の懲役若しくは3千万円以下の罰金」とその法定刑を定めていますが,実際の刑は,どのようなものかさらに検討します。

 覚醒剤の密輸事件でも,スーツケースや体内に覚醒剤を隠匿して密輸する運び役の場合,懲役刑と罰金刑が併科されます。
 密輸量が10キロ未満だと,8年から9年の懲役刑に処せられている事件が多くなっています(密輸量が1キロ未満だと,6年から7年の懲役刑に処せられている事件が多くなっています。)。
 少し古い資料ですが,裁判員裁判施行時から平成23年3月までの覚醒剤密輸事件の量刑分布については,懲役9年が最も数として多く,懲役7年から懲役11年前後に処せられている事件が多かったようです(原田国男『裁判員裁判と量刑法』281頁)。
 もちろん,刑の重さは,事件の内容により変わってきます。
 被告人にとって有利な事情(密輸量が少ない,事件に加担した経緯において同情できる事情がある等)があれば,刑は相対的に軽くなるでしょうし,不利な事情(密輸量が多い,単なる運び役ではなく,密輸組織において立場が上の者である,密輸の前科前歴がある等)があれば刑は相対的に重くなります。

 当職が実際に担当した事件でも,密輸量が比較的少ない(500グラム未満)ケースで懲役6年となった事例がありますが,1キロを超える密輸量の場合は,7年から9年に処せられる事件が多く,密輸した量が多かったり,立場が運び役よりも上であったり,密輸する実行役をリクルートした等の不利な事情がある場合には,10年を超える懲役刑が選択された事件もありました。
 
 罰金刑も必ず併科されていますが,300万から500万円の罰金刑が併科されることが多く,納付できなければ,労役場留置されることとなります(1日あたり1万円と定める判決が多いです。)。したがって,懲役8年に罰金300万円(1日あたり1万円換算の場合)が併科された場合,罰金が納付できない場合は,懲役8年の他に,罰金を納付できないために300日間の労役場留置となります。

5 覚醒剤密輸事件の量刑傾向は,軽くはありません。罰金も高額となることが多いです。もちろん,事案ごとに個性(有利な事情や不利な事情)がありますので,具体的なことでご質問等あれば,当事務所の弁護士にご相談ください。
 なお,密輸事件の量刑については,当事務所の菅野亮弁護士及び中井淳一弁護士が執筆した文献(『日本弁護士連合会刑事弁護センター編 裁判員裁判の量刑Ⅱ』現代人文社・2017)もご参照ください。
以上

 

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★