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イギリス刑法判例紹介① Wallace <因果関係>

2020.06.08ブログ

【事案】 

痴情のもつれから、被告人(女性)が被害者(男性)に硫酸を投げつけた。その結果、被害者にはひどい外貌醜状と麻痺が残った。被害者は、精神的、肉体的に極度の苦痛を感じ、ベルギーに渡り、病院での安楽死を選択した(ベルギーでは安楽死は合法)。

【判断】

Crown Courtでは、当該事案の事実からは因果関係が認められない旨の裁定を裁判官が下したが、Court of Appeal は因果関係を認めることは可能と判断し、陪審による再度の審理を求めた。最終的に、陪審は被告人の行為と被害者の死亡結果との因果関係を認めた。

【コメント】

イギリス刑法では、因果関係の判断は、causation in fact(事実的因果関係)とcausation in law(法的因果関係)の二段階で行われます。本件は、安楽死を選択した被害者の死亡結果について、被告人の行為との法的因果関係が問題となった事案です。

因果関係という(日本法にも見られる)古典的な刑法上の争点と、安楽死という現代的な事象との関係が興味深いですが、被害者による安楽死の選択すら因果関係を切断しないという結論は、日本の刑事弁護人から見るとなかなかショッキングです。

                                                   弁護士 中井淳一

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★