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境界紛争で問題となる取得時効制度とは

2020.05.25ブログ

1 境界紛争で問題となる取得時効制度とは
 自己所有地に越境する位置に,隣地所有者のブロック塀がある場合,隣地所有者からブロック塀があるエリアまでを時効取得したといわれることがあります。
 時効制度は,民法162条に定められています。権利行使しない場合の時効を消滅時効といいますが,占有状態が係属することで権利を取得することもあるので,これを取得時効と呼んでいます。
 取得時効が認められる場合,自分の土地が他人の土地になってしまうこともあるため,自己所有地の管理に注意が必要です。

民法162条
① 二十年間,所有の意思をもって,平穏に,かつ,公然と他人の物を占有した者は,その所有権を取得する。
② 十年間,所有の意思をもって,平穏に,かつ,公然と他人の物を占有した者は,その占有の開始の時に,善意であり,かつ過失がなかったときは,その所有権を取得する。

2 土地の取得時効が認められる要件
 土地に関する取得時効の要件は,一定期間,土地を占有することです。
 占有開始時に善意無過失である場合は,10年間の経過で時効取得しますし,占有開始時に善意無過失でなくても,20年間の経過で時効取得します。占有者の善意無過失とは,裁判例では,自己に所有権があるものと信じ,かつ,そのように信じることにつき過失がないことをいう,とされています(最高裁昭和43年12月24日判決)。
 土地を占有するというのは,例えば,他人の土地に動産を置いていたというだけでは認められないことが多いと思われます。判例でも,「一定範囲の土地の占有を継続したというためには,その部分につき、客観的に明確な程度に排他的な支配状態を続けなければならない」とされています(最高裁昭和46年3月30日判決)。
 平穏かつ公然と占有することも要件ですが,暴行・強迫など違法な手段でなければ平穏かつ公然の要件を満たすことが多いと思われます。
 所有の意思を持って占有すること(自主占有)も必要です。例えば,その土地を賃借しているという認識があれば,他人の土地だと分かって占有していることになりますので,所有の意思を持って占有したとはいえません。自主占有というためには,自分の土地だと思って占有していくことが必要です。

3 時効取得と登記の関係
 時効取得が成立した場合,時効取得が成立した範囲の土地が占有者の所有地となります(土地全部ということもあるかと思いますが,ある土地の一部であることも多いです。)。
 しかし,ある土地を時効取得したとしても,当然に所有権移転登記がされるわけではなく,登記しない限り,第三者(土地の元所有者以外の者)に対抗できないため,元の土地所有者と協議して,時効取得した土地の登記(土地の一部である場合,分筆登記することが必要です。)をすることで,第三者に対抗することができるようになります。
 時効取得が認められる場合でも,その登記前に,土地が第三者に売却され,購入者が所有権移転登記をした場合,原則として,新所有者に対して,時効取得したことを対抗できません(最高裁昭和41年11月22日判決)。ただし,例外的に新所有者が,背信的悪意者にあたる場合には,登記なくして,土地の時効取得を対抗することができます(最高裁平成18年1月17日判決)。上記最高裁判決では,「甲が多年にわたり当該不動産を占有している事実を認識しており,甲の登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情が存在するときは,乙は背信的悪意にあたる」とされています。
 どのような事情があれば,「登記の欠缺を主張することが信義に反する」といえるのかについては事例ごとの判断になると思われます。

4 時効取得の立証の難しさ
 長年の占有があれば,他人の土地でも時効取得することが可能です。
 しかし,かなり昔の出来事について,誰が,いつから,どのように占有していたかについて立証することは簡単なことではありません。
 背信的悪意について判断した上記の最高裁平成18年1月17日判決も,「取得時効の成否については,その要件の充足の有無が容易に認識・判別することができない」と述べています。
 
 時効取得した,あるいは,時効取得された土地に関する問題が生じた場合には,こうした事項に関して専門的知識を有する弁護士に相談しながら対応を決める必要があります。

 

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★