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登山と刑事責任~登山講習に関する業務上過失致死傷事件の量刑

2026.09.08ブログ

2026年9月
弁護士 菅 野  亮

 栃木県高体連主催の春山安全登山講習会での雪上歩行訓練中、雪崩が発生し、生徒7名・教員1名が死亡(生徒5名が受傷)するという痛ましい事件があり、引率した高校教諭が業務上過失致死傷罪で起訴されました。
 本事案で、被告人とされた教諭らは、雪崩を原因とする死傷事故の予見可能性がなかった等の主張をしました。

 第1審の宇都宮地方裁判所(令和6年5月30日)は、被告人らの過失を認め、3名とも禁錮2年の刑としました。

 第1審判決は、量刑理由について、「本件犯行が故意によるものではないとはいえ、8名の生命が奪われた被害結果は、受傷者が5名に上るとともにその受傷内容も軽度とはいえないことも相まって、非常に重大なものといわなければならず、とりわけ突如として我が子を失った遺族の各心痛はいずれも察するに余りあり、死亡した6名の被害者(G2、J2、H2、I2、D2及びC2教諭)の遺族が被害者参加人として出廷した中で、生徒が主講師の指示に従わなかったなどとも受け取られかねない内容を含む不合理な弁解を行った被告人3名に厳重な処罰を求めていることも当然の心情として理解できる。このような被害結果の重大性は、被告人らの量刑判断に当たりまずもって指摘せざるを得ない。」
と指摘しています。
 死亡被害者のみで8名であることから、「被害結果の重大性」を重視したということかと思われます。

 過失の悪質性について、次のように判断し、「実刑を選択すべき領域」だと評価しました。また、各被告人の刑事責任については軽重はないとして、3名の被告に同じ刑を科しています。

「被告人3名の共同過失については、栃木県内では本件のような登山講習会がかねてから慣例として開催されてきた中でいわゆる正常性バイアスが影響した可能性があるほか、もとより本件が雪崩という自然現象を背景とし、日時場所が個別具体的に特定された雪崩発生の確実な予測が困難である(本件の当時には南岸低気圧による降雪が雪崩発生のリスク要因であるとの所見も明らかでなかったとうかがえる。)という特質等が前提となる事故であることを踏まえて検討しても、相当に重い不注意による人災であったといわなければならない。」

「以上によれば、本件講習会会長等として関与していた被告人Y1、同副会長兼主任講師等として関与するとともに個別過失を競合させた同Y2、主講師等として関与するとともに個別過失を競合させた同Y3の各刑事責任については、いずれも軽視できるものではなく、実刑を選択すべき領域に及んでいる」

 上記事件については、被告人らが控訴し、控訴審(東京高裁令和8年3月4日)においては、一部、刑が変更されています。

第1審では、3名とも禁錮2年の実刑でしたが、控訴審においては、3名のうち2名については、禁錮2年・5年間の執行猶予と量刑が軽く変更されました(残り1名については、刑の変更はなく、控訴棄却となりました。)。

なぜ、第1審で、3名の責任について軽重がないとされていた評価が変わったのか、その点について、判決の内容をご紹介します。

控訴審は、まず、「1審判決は、各被告人の立場や役割、実際に行われた各被告人の本件訓練での行動やその際の状況、雪崩発生の危険性のある区域に訓練参加者が立ち入ることに関する予見可能性の各時点における程度やその変化、各段階での結果回避への寄与の態様の差を踏まえて行われるべき過失の軽重の評価を誤った」と判断しました。

その上で、控訴審は、次のように第1審判決の問題点を指摘しています(下線は筆者が引いたものです。)。

「1審判決が、被告人3名の共同過失について、『県内では本件のような登山講習会が慣例として開催されてきた中で正常性バイアスが影響した可能性があるほか、雪崩という自然現象を背景とし、日時場所が個別具体的に特定された雪崩発生の確実な予測が困難であるという特質が前提となる事故であることを踏まえても、相当に重い不注意による人災であった』、『被告人B及び同Cの個別過失についても、共同過失の危険が基本的に現実化したといえるにせよ、なお雪崩発生の危険の予見、回避が求められる具体的状況下で、いずれもその危険を看過したまま生徒らをして集団による登山行動を継続させていたものであって、軽視し難い』と説示したことについては、第3の2(3)で検討したとおり、本件訓練開始までの時点において、本件訓練中、班別行動の参加者が本件上部斜面やその下方といった雪崩の発生区域や流路となる危険性がある区域に立ち入ることの予見可能性が高いものであったとまではいい難いところ、1審判決がこの点を考慮した形跡は見当たらない。そして、被告人B及び被告人Cについては、被告人Aとは異なり、共同過失と各自の個別過失とされる部分を含めたいわば一連の複合的な過失行為の責任が問われているところ、前記のとおり、実際に、本件訓練の中で、従前からの積雪の上に新雪が積もった中で斜面等を移動していく中で、雪崩発生の危険性及び移動先の場所等に関する多くの具体的な情報を認識し、雪崩発生の危険性についてより容易かつ明確に予見できるようになっていた中で、まさにそうした危険を有する場所である上部斜面を自ら率いる班で移動することとし、あるいは他の班が移動するのを見たのであるから、雪崩に巻き込まれる危険が相当高まっている状況にあったといえ、死傷結果について、予見がより容易になっていた上、回避のための行動もより直接的なものになっていた。そうすると、被告人B及び被告人Cにとって、訓練開始時までの時点においてよりも、個別過失行為の時点の方が、予見可能性が高まっていた上、回避行為も因果の過程の中でより結果に近いものになっていたといえる。共同過失も個別過失も、要するに、班別行動参加者が雪崩に巻き込まれることによる死傷結果を回避するためのものであるから、被告人B及び被告人Cの責任を見る場合には、これらの事情を踏まえて個別具体的に注意義務違反の程度の大きさを評価すべきである。(このことは、生徒等の安全確保を確実にするため、訓練開始前に安全区域を限定するとともに、その履行、担保方法として、こうした計画内容を参加者全員に周知徹底することが重要であることを何ら否定するものではない。)。」

控訴審では、さらに3名の被告の責任の軽重について、第1審よりも丁寧に個別事情を評価しています。

「1審判決が、『被告人3名の各刑事責任については、いずれも軽視できるものではなく、実刑を選択すべき領域に及んでいる。』『被告人Bが引率した班で生徒10名及び教諭1名が死傷する一方、被告人Cが引率した班では生徒2名の受傷にとどまっていることなどを踏まえても、各被告人の刑事責任の軽重につき格段の違いはない。』と説示する部分については、上記過失の内容の点に加え、被告人Bが、個別過失行為の際、1班生徒らに複数回引き返すことを提案している点では酌むべき面もあるが、引き返すべき相当の危険を感じていながら、被告人3名の中でも積雪期を含む登山経験等が特に豊富であり、本件講習会での実技訓練に関しては主任講師として中心的な立場にあるとともに、1班の行動を直接指示すべき主講師の立場にあって、正に1班の命運を握っていたといえる被告人Bが、結局は登山の続行という明らかに危険性を高める行動を許可した結果、その1班生徒等に多大な死傷者が出たことを相当程度考慮する必要がある。他方、被告人Aは、本件講習会の会長であるとともに、相応の経験を有していることなどの点を考慮する必要がある一方、被告人B及び被告人Cとは異なり、本件訓練の実施中には、直接移動場所を指示するなどすべき立場にはなく、本件計画変更等についても経験豊富な被告人Bや被告人Cに相談して進めていること、その際、本件訓練は経験豊富な被告人Bや被告人Cが主講師として引率することが前提となっており、本件訓練開始後、敢えて雪崩等の危険性がある上部斜面に班別行動参加者が立ち入る可能性が高いものであったとまではいえない面があることも踏まえる必要がある。このほか、被告人Cについては、本件計画変更等において重要な発言をして関与しているとはいえ、本件講習会全体について主講師である以上の役職にはなかったこと、個別過失行為の際、2班生徒らにトラバースを指示しており、その指示自体が危険性を高めるものであったとまではいえないことを考慮すべきである。」

控訴審は、上記の責任の軽重を検討した結果、「役割、過失の程度、結果との関係において、被告人Bの責任が最も重く、被告人A及び被告人Cについてはこれと同等に重いものとはいえないというべきであり、各被告人の刑事責任の軽重に格段の違いはないとした1審の判断は、各被告人の過失内容等を抽象的にとらえて検討したために、考慮すべき点を考慮していないものであって是認できない」として、3名とも禁錮2年の実刑にした第1審判決を変更して、AとCについては、執行猶予付判決としています。

死傷者が複数でてしまうような結果が重大な事件において、量刑判断に関して、過失の内容やその軽重等について、細やかな議論がされない傾向がありますが、控訴審において行われたように、それぞれに、どのタイミングでどのような過失があるのかを丁寧に検討する必要があるように思われます。複数名の過失が問題となる事件で、量刑主張をする上で参考になるかと思い、紹介しました。

以上

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★