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検察こぼれ話④ ~本部係~

2020.12.25ブログ

2020年12月25日   
弁護士 金 子 達 也   

 

1 各地の地方検察庁の検察官は「少年係」,「麻薬係」などの係に指名され,県警(警視庁)少年係・麻薬係等からの相談窓口を任されていました。

  そのような「係」のひとつに「本部係」がありました。
  筆者も,千葉地検をはじめとするいくつかの地検で「本部係」に指名されていたことがあるので,今日は「本部係」のお話しをします。

2 法務省のホームページを見ると,本部係検事について,「殺人や強盗殺人等の凶悪重大事件が発生すると,警察が事案の早期解明と犯人の早期検挙に向けて捜査本部を設置することがあります。このような事件を本部事件といいます。そして,このような本部事件の捜査において,発生当初から,捜査本部と共同して捜査を行い,事件の解決を目指すのが本部係検事です。」などと紹介されています。
  要するに本部係というのは,県警(警視庁)捜査一課が捜査本部を立てて捜査を行うような重大殺傷事件について,捜査一課のカウンターパートとして機能する検事のことを言います。

3 法務省のホームページでも紹介されているように,本部係検事に指名されると仕事用の携帯電話を持たされます(「本部携帯」などと呼ばれています。)。
  そして,捜査本部が設置されるような事態(通常は変死体の発見)が起きれば,休日夜間を問わず,この本部携帯が鳴って呼び出されるのが本部係検事なのです。
  ちなみに昔,着メロが流行っていた時代がありましたが,筆者がはじめて先輩から引き継いだ本部携帯の着メロは,「太陽にほえろ」のテーマソングでした。
  すかさず,筆者は,それを「踊る大捜査線」のテーマソングに変更したのですが,思えば,これが筆者の本部係としての初仕事でした。

4 本部携帯で呼び出される先は,多くが大学の解剖室でした。
  まず,変死体の解剖に立ち会い,御遺体の傷の状況を自分の目で確かめる必要があったからです。
  解剖室には,捜査一課の捜査官も来ていましたから,本部係検事は,解剖に立ち会いつつ,捜査一課の捜査官の話を聞き,変死体の発見状況や周辺捜査の状況に付いての情報を得て,今後の捜査方針等を捜査官と話し合うのです。
  いや,まずは,事件の現場に向かうべきなのではないか?
  と,疑問を持たれる読者もおられるかと思います。
  しかし,最初に事件の現場を踏むべきは,鑑識です。
  鑑識による詳細な検証が終わるまでは,余計な人間(検事も余計な人間です)が現場を荒らさないよう気を遣うのが,捜査の不文律だったのです。

5 筆者の場合は,その後に向かうのは捜査本部と決めていました。
  捜査本部のことを,内輪では「帳場」とも呼んでいました。
  ちなみに,大きな事件の捜査本部には,達筆な警察官が「●●事件捜査本部」など毛筆で書いた看板が設置されましたが,これは「戒名」と呼ばれていました。
  帳場では,捜査一課の捜査員や応援に入ってくれた所轄警察官と顔を合わせ,今後の捜査方針等についての打合せに参加し,検察官としての意見を述べました。
  帳場が立つ事件は難事件が多く,中には,犯人の目星も立たないまま捜査が長引くケースもありました。
  そのようなときは,その後も定期的に捜査本部に足を運び捜査員を励ますのも,本部係検事の重要な仕事でした。
  そのときの差入品は,どういうわけか,昔から,栄養ドリンクと決まっていました。
  筆者も,栄養ドリンクを買って捜査本部にお邪魔し,捜査主任官の愚痴を聞いたり,自分なりのアイデアを伝えたりして,捜査が一歩でも進展するよう心を砕いていました。

6 このような苦労をして事件を解決したときは,本当に嬉しかったです。
  警察の捜査員と喜びを分かち合い,うまい酒を飲みました。
  検事の中には,死体に触れたり,いつ解決するかわからない事件に首を突っ込むような「泥臭い」捜査を嫌う人もいました。
  しかし,筆者は,この本部係の仕事が大好きで,自分の肌に合っていると思っていました。
  そして,そんな苦労を重ねる中で,警察官と,一生の友とも言える友情を育むことができました。
  写真の赤色バッチは,警視庁捜査一課のバッチ(本物)です。
  とある捜査で苦労を分かち合った警察官から,あんたは捜査一課の準構成員だと言われて,このバッチをもらいました。
  一生の宝として,弁護士になった今も,大切に保管しています。

 

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★