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死体から腕時計を外して持ち去る行為は,何罪になりますか?

よくあるご質問刑事事件

1 大きな意味で「泥棒」であることは間違いありません。
  しかし,窃盗罪(刑法235条:法定刑は10年以下の懲役又は50万円以下の罰金)には当たらないと言われています。
  窃盗罪は,「他人が占有」する財物を奪う犯罪と理解されているからです。
  死体は,もはや「人」ではなく「占有の意思」もないとされていますので,死体から腕時計を外して持ち去る行為自体は,窃盗罪に問われることはありません。
  せいぜい占有離脱物(遺失物等)横領罪(刑法254条:法定刑は1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料)に問われる程度の犯罪と考えられているのです。

2 もっとも,殺人等の犯人が,自らが死亡させた人の死体から腕時計を外して持ち去る行為は,窃盗罪や,もっと重い罪に問われることになります。
 ⑴ まず,最初から腕時計を奪おうと考えて,そのために,人を殺して腕時計を外して持ち去った場合は,強盗殺人罪(刑法240条:法定刑は死刑又は無期懲役)という極めて重い犯罪に問われます。
   人を殺して財物を奪う行為は,強盗殺人罪が予定する典型的な犯罪類型であると考えられていますから,この点に異を唱える人は少ないでしょう。
 ⑵ それでは,最初から腕時計を奪うつもりはなく,別の理由又は原因で人を死なせてしまった犯人が,死体の腕に巻かれていた腕時計に気付き,そのときはじめて自分のものにしたいと考えて,その腕時計を外して持ち去ってしまった場合はどうでしょうか。
   この点に関しては,昭和41年4月8日最高裁判所第2小法廷判決が,「このような場合,被害者が生前有していた財物の所持はその死亡直後においてもなお継続して保護するのが法の目的にかなうものというべきである。そうすると,被害者からその財物の占有を離脱させた自己の行為(=被害者を死なせた行為。筆者註)を利用して財物を奪取した一連の行為は,これを全体的に考察して,他人の財物に対する所持を侵害したものというべきであるから,占有離脱物横領ではなく,窃盗罪を構成する。」旨判示しています。
   つまり,最高裁判所は,このような場合には,軽い占有離脱物横領罪ではなく,重い窃盗罪が成立すると判断しているわけです。

3 ところで,最近,「令和20年10月9日神戸地裁判決が,自殺幇助罪と占有離脱物横領罪の罪に問われた被告人に対し,懲役1年4月(求刑懲役2年6月)の有罪判決を言い渡した。」旨のニュースがありました。
  詳しい証拠関係や事実関係が報道されていたわけではないので,以下は憶測となりますが,筆者としては,上記最高裁判決に照らし理論的に突き詰めて考えれば,このケースについても窃盗罪が成立した可能性があるのではないかと考えています。
  もっとも,刑事訴訟法は,検察官に対し,「犯人の性格,年齢及び境遇,犯罪の軽重及び情状並びに犯行後の情況により訴追を必要としないときは,公訴を提起しないことができる。」(刑事訴訟法248条。起訴便宜主義)と定めており,この規定によって,検察官は,理論的に重い罪が成立する場合であっても,刑の均衡を考えて,より軽い罪で起訴することがあります。
  ですから,もしかしたら,このケースの場合にも,検察官が種々の事情を考慮した上で刑の均衡を考えて,窃盗罪ではなく占有離脱物横領罪の罪に問えば十分と考えて起訴したのかもしれません(あくまでも筆者の憶測です。真相はわかりません。)。

2020年12月7日

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★