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アンナチュラル?な法医学の話②(死亡診断書・死体検案書)

2018.10.22ブログ

 人が死亡すると,遺族には,相続という新たな権利・義務関係が発生します。
 死者が生命保険に加入していたとすれば,生命保険金の支払請求権という権利が発生しますし,死亡原因が交通事故や労災事故であった場合には,損害賠償金の支払請求権という権利も発生します。

 このように,「人の死」は,さまざまな権利・義務の発生原因ともいえます。
 そして,人の死を,医学的・法律的に証明するための文書が,医師の作成する死亡診断書・死体検案書です。
 死亡保険金の請求に当たっては死亡診断書又は死体検案書の添付が求められますし,死者を弔うための埋葬許可証を受け取るためにも死亡診断書又は死体検案書の提示が求められます。
 さらに,その死亡事実を戸籍に記載するため同居の親族らに義務付けられている死亡の届出にも,死亡診断書又は死体検案書の添付が求められているのです(戸籍法86条)。
 死亡診断書・死体検案書は,これがなければ遺族は何もできないと言っても言い過ぎではないくらい,重要な書類と言えるでしょう。

 さらに,死亡診断書・死体検案書は,厚生労働省が作成する「死因統計」の資料としても使われています。
 死因統計は,国民の保健・医療・福祉に関する行政の重要な基礎資料として役立つとともに,医学研究をはじめとした各分野においても貴重な資料とされています。
 さらに,疾病、傷害及び死因の統計は,世界各国の国民の健康の保持、増進に役立てるために国際的に比較可能なものであることが必要であることから,国際社会においては,国連世界保健機構(WHO)が定めた「疾病及び関連保健問題の国際統計分類(ICD)」が国際的に了承された統一的な分類として使用されており,日本においても,ICDが導入されています。
 そのため,死亡診断書・死体検案書の作成には,IDCに準拠した一定のルールが定められており,将来医師を目指す医学部生は,法医学教育の一環として,死亡診断書・死体検案書の作成ルールについての教育も受けています。
 また,厚生労働省は,死亡診断書・死体検案書の記入方法などを詳しく解説した「死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル」を定め,WHOの勧告を受け入れるなど時代に合わせた改訂を加えた最新版を,随時,ホームページ上に公開しています(現在は平成30年度版が公開されています。)。

 なお,死亡診断書と死体検案書の違いですが,死亡診断書というのは,診療中の患者が死亡し,その臨終に医師が立ち会っていた場合に,医師が作成して遺族に交付する書類のことを言い,例外的に,診療後24時間以内の死亡で,異状死体でなければ,死亡診断書を作成することができるとされています(医師法20条但書参照)。
 これに対し,死に際して医師の立会がなかった場合には,上記例外的場合を除き,すべて死体検案書が作成されます。
 人はいつかは必ず死ぬものですが,普通に暮らしていれば,病院や自宅で医師に看取られて病死(又は老衰による自然死)することが多いでしょう。この場合,死亡診断書が作成されることになります。他方,ドラマ「アンナチュラル」で扱われた異状死体は,死後に発見された死体(すなわち死に際して医師の立会がない死体)である場合が多く,死体検案書が作成されることになるのです。

 せっかくですから,死亡診断書・死体検案書の内容にも,少し触れてみましょう(詳しく知りたい人は,厚生労働省のホームページにアクセスしてみてください。)。
 死亡診断書・死体検案書には,大別して,①死者の特定事項(氏名・性別・年齢など),②死亡日時・場所,③死亡の原因、④死亡の種類(病死又は自然死,外因死,不詳の死の別など),⑤外因死の追加事項(外傷の原因となり得る事情など)などの記載が求められていますが,その中心といえるのが「死亡の原因」欄です。
 この「死亡の原因」欄には,まず,最も死亡に影響を与えた傷病名を医学的因果関係の順に記入することが求められます(Ⅰ欄)。
 例えば,①慢性腎臓病の患者が多臓器不全で死亡したという症例であれば
    (ア) 直接死因  多臓器不全
    (イ) (ア)の原因  慢性腎臓病
と記載することが求められます。
 また,②入浴中に脳梗塞の発作を起こし溺死した症例であれば
    (ア) 直接死因  溺水
    (イ) (ア)の原因  脳梗塞
と記載することが求められるわけです。
 さらに,例えば,③バイク事故で転倒して頭部を強打し,植物状態のまましばらく生存していたが,最終的には感染症により肺炎を起こし,それを原因とする敗血症で死亡したという,死に至る経過が複雑な症例であれば
    (ア) 直接死因  敗血症」
    (イ) (ア)の原因  MRSA肺炎
    (ウ) (イ)の原因  遷延性意識障害
    (エ) (ウ)の原因  頭部外傷
などと記載されることもあります。そして,③の症例の場合には,「外因死の追加事項」欄に,頭部外傷の原因となった事象が「バイクで走行中に転倒し,路面で頭部を強打」などと記載されることになるのです。
 「死亡の原因」欄には,さらに,直接は死因に関係していないが,Ⅰ欄の経過に影響を及ぼした傷病名等があれば,それを記入することが求められます(Ⅱ欄)。
 例えば,慢性的な高血圧症の患者さんが,急性心筋梗塞を発症して死亡した場合であれば,Ⅰ欄に「(ア)直接死因:急性心筋梗塞」と記載した上で,Ⅱ欄には,心筋梗塞をもたらす動脈硬化に影響を及ぼした疾病として,「高血圧」と記載することが求められるわけです。
 厚生労働省では,このようなルールに従って作成された死亡診断書・死体検案書を資料として,WHOが示すルール(「原死因選択ルール」というものです。)に従って各死因を確定し,死因統計を作成しています。
 このように,法医学は,死者の死因を医学的・法律的に確定するだけではなく,それを統計資料として提供することによって,みなさんの健康の保持や増進にも役立つ学問・研究と言えるのです。

弁護士 金子達也

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★