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犯罪白書を読んでみよう② ~戦後日本の刑法犯検挙率の推移~

2026.04.14ブログ

2026年3月
弁護士 金子 達也

1 はじめに

 犯罪白書を読むと、戦後日本の世相を振り返ることができます。
 そのことをお伝えする前に、今回は、戦後日本の刑法犯検挙率の推移について、少し紹介したいと思います。
 前回お伝えしたとおり、検挙率というのは、犯罪の認知件数に対する検挙件数の割合を百分率で表した数値のことをいい、検挙率が悪ければ体感治安が悪くなるという一定の相関関係にもあります。
 ですから、警察などの捜査・取締機関は、検挙率を上げるため、犯罪者の検挙に向けて日夜努力を重ねているわけです。
 犯罪白書でも、検挙率向上に向けた施策などが紹介されることがありますが、その際には、そのベースとして当時の世相の分析なども行われています。
 そういった意味で、検挙率の推移は、世相を現す数値といえます。

 

2 戦後日本の刑法犯「認知」件数の推移と世相

 「R6年版 犯罪白書の概要(R6概要)」二枚目をみると、刑法犯の認知数・検挙件数が『棒グラフ』で、検挙件数が『折れ線グラフ』で、それぞれ記載されています。
 このグラフを見れば、これらの数値及びその推移が、具体的なイメージとして理解できるはずです。
 グラフを概観すると、戦後日本の刑法犯認知件数は、初期は概ね年間約130万件前後で推移していたものの、昭和55(1980)年頃から増加傾向を見せ、平成14(2002)年には年間約285万件(ピーク)に達していることがわかります。その後は減少傾向となり、令和3(2021)年に一旦は底をついているものの、令和3年以降は2年間連続増加し、令和5年には70万3351件に達していることがわかります。
 これらの数値及びその推移に、グラフ下に書かれている社会問題を重ね合わせると、刑法犯認知件数等の推移に社会問題が影響してくる構図が、なんとなく見えてきます。
 例えば、平成14(2002)年に刑法犯認知件数がピークを迎える数年前には、「バブル崩壊」、「阪神・淡路大震災 地下鉄サリン事件」などの大きな社会問題が起きていますが、重ね合わせてみると、これらの社会問題が社会不安を招き、それが犯罪増加に寄与したのではないかという、一定の推論が浮かんできます。
 また、令和3(2021)年に刑法犯認知件数が底を着く少し前には「新型コロナウイルス感染症の感染拡大」という社会問題が起きていますが、これを重ね合わせてみると、新型コロナにより活動自粛が続いたことが、犯罪の減少につながっているのではないかという、一定の推論が浮かんでくるはずです。さらに、その裏返しとして、近時再び刑法犯認知件数が増加に転じたのは、新型コロナによる活動自粛が解けて人々の活動が活発になったからではないかという、一定の推論も見えてくるのです。
 このように、このグラフを眺めるだけでも、犯罪と世相との関係について様々な推論(イメージ)が浮かんできます。
 更に犯罪白書では、毎年、これを更に深めた分析結果を「特集」として紹介していますが、これは、読み物としてとても興味深いものです。
 R6年版犯罪白書では「女性犯罪者の実態と処遇」という特集が組まれていますが、これらの特集についても、今後、筆者の視点(独断と偏見)を入れて、随時紹介していきたいと思っています。

 

3 戦後日本の刑法犯「検挙」件数の推移

 話が少し横道にそれてしまいました。
 そろそろ、今日の本題である「戦後日本の刑法犯検挙率の推移」を紹介したいと思います。
 グラフを概観すると、戦後日本の刑法犯検挙率は、初期は概ね約60パーセント前後で推移していたものの、平成元(1992)年頃から急激に減少し始め、平成13(2001)年頃には約20パーセントまで落ち込んでいます。その後、少しずつ検挙率が上がり、令和3年(2021)頃には45パーセントを超えるまで回復していますが、その後は減少し、令和5(2023)年には38.3パーセントに落ち着いていることがわかります。
 前記のとおり、検挙率が悪ければ体感治安が悪くなるという一定の相関関係にあるところ、その観点からみると、令和5年の検挙率38.3パーセントという数字は、決して満足がいく数値とはいえません。むしろ、そんなに低いのかと、驚く数値ではないでしょうか。
 犯罪白書では、この数値及びその推移を元に、世相を絡めた様々な分析が行われていますが、これは決して難しい作業ではなく、みなさんがグラフを見ただけでも一定の推論が浮かんでくるはずです。
 例えば、グラフの下には書かれていませんが、マイクロソフト社がWindows3.1を発表したのが平成4(1992)年であり、このころから広くインターネットが利用されるようになった世相と照らし合わせると、平成元年頃からの検挙率の急激な低下は、インターネット利用により犯罪の匿名化が進んだためではないかという、ひとつの仮説が浮かび上がってきます。反面、平成13(2001)年頃以降に検挙率が上がってきた原因は、ようやく捜査機関がインターネット利用の匿名犯罪にも対応できるスキルを身に付けた賜物ではないかという仮説も成り立つわけです。
 また、前述のとおり、刑法犯認知件数が昭和55(1980)年頃から増加傾向をみせ平成14(2002)年頃にピークを迎えた一方、刑法犯検挙率が平成4(1992)年頃から急激に減少しはじめ平成13(2001)年頃には約20パーセントまで落ち込んでいることを比べたとき、検挙率の急激な低下が犯罪の増加に拍車を欠けたのではないかという仮説も浮かび上がってきます。
 前回のコラムで『トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)』のような犯罪組織が検挙されない社会は体感治安が悪くなると書きましたが、それだけには止まらず、これを放置すると、模倣犯罪が多発するなどして犯罪全体の数を底上げしまうという、困った相関関係が生じてしまうということなのです。
 このようにしてみると、検挙率も単なる数字ではなく、世相を現す「物語り」のひとつにみえてきますね。

 次回は、R6年版犯罪白書が特集している「女性犯罪者の実態と処遇」についてみてみましょう。

以上

(関連記事)犯罪白書を読んでみよう① ~検挙率・暗数・体感治安~

 

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★