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押収された物品(証拠物)の還付について

2025.06.03ブログ

令和7年4月
弁護士 菅 野  亮

 

1 捜査機関による証拠の押収

 刑事事件では、被疑者・被告人の所持品等が押収されることがあります。
 例えば、特殊詐欺の受け子や出し子は、被害品である現金を所持したまま逮捕されることがありますが、所持していた現金や指示役との連絡ツールである携帯電話などが警察に押収されます。
 千葉で多く発生する薬物の密輸事案だと、密輸しようとした薬物だけでなく、被疑者が所持していたスーツケースに入っている被疑者の衣類、財布、ノートパソコン、携帯電話等全てが税関に押収されます。密輸事案では、所持していた衣類・金品すらない状況で勾留されますので、被疑者は、警察にある衣類を借りたりしています。

 

2 裁判が終わった後の押収物の返還(還付)

 押収された物品(証拠物)は、裁判が終わると被告人に返還されます。
 当然ですが、被害品(現金や盗んだ物品)は、所有者に還付されることになりますので、被告人に還付されることはありません。
 また、後述するとおり、還付請求が権利濫用だと判断される場合にも、還付されないことがあり、そのような場合、捜査機関は、還付請求権者に対して所有権放棄を促したりします。

 

3 還付の請求

 裁判が終わる前であっても、押収された物品(証拠品)の還付請求を行うことがあります。
 還付とは、押収物について留置の必要がなくなった場合に、押収を解いて原状を回復することをいいます(最決平成2・4・20刑集44巻3号283頁)。
 裁判所による還付の規定である刑事訴訟法123条1項(「押収物で留置の必要がないものは、被告事件の終結を待たないで、決定でこれを還付しなければならない。」)は、同法222条1項により、捜査機関の押収物について準用されていますので、還付を請求する法律上の根拠は、上記の条文となります。
 捜査機関に対する還付請求権が存在することについて、それを認める最高裁の決定もあります(最決平成15・6・30刑集57巻6号893頁)。
 実際、裁判が終わる前に、押収された物品(証拠品)の還付を受ける必要性は高いです。
 例えば、密輸事件では、衣類等の全てが押収されますので、身の回りの衣類等について還付を受ける必要性があります。
 また、押収された帳簿類、携帯電話、ノートパソコンなどの物品(証拠品)には、依頼者の無罪を立証するための重要な情報がある場合もありますので、裁判の前に還付してもらい、その内容を確認する必要があります(捜査機関は、携帯電話のデータを解析したり、その一部について写真撮影をして報告書にしていますが、携帯電話のデータ全てが証拠化されるわけではありません。)。

 

4 還付の請求が認められない場合

 最高裁は、捜査機関による押収処分を受けた者は、刑訴法222条1項において準用する123条1項にいう「留置の必要がない」場合に当たることを理由として、当該捜査機関に対して押収物の還付を請求することができると判断していますが、申立人に還付することが相当でない場合として、「申立人以外の者に還付することが相当である場合」や「捜査機関に更に事実を調査させるなどして新たな処分をさせることが相当である場合」があることを認めています(最決平成15・6・30刑集57巻6号893頁)。
 また、最高裁は、性犯罪に関して、携帯電話やICレコーダーの還付請求がなされた事案で、携帯電話等に保存された各データは、被害者に無断で撮影又は録音されたものであり、これらが流布された場合には、被害者の名誉、人格等を著しく害し、被害者に多大な精神的苦痛を与えるなどの回復し難い不利益を生じさせる危険性があるとして、還付請求が権利濫用となることを認め、還付請求を認めませんでした(最決令和4・7・27刑集76巻5号685頁)。

 

5 おわりに

 還付が必要な物品(証拠品)については、「留置の必要」がないとして、早期に還付請求を行うべきですが、上記の最高裁の事案のように、還付された結果、他者の権利侵害が想定されるような物品(証拠品)だと、その点への配慮も必要になるため、注意が必要です。 

以上

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★