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大麻使用罪の可罰化に関する一考察

2024.01.18ブログ

令和6年1月      
弁護士 金 子 達 也 

 

 大麻使用罪が創設されるという趣旨の報道に接し、少し整理してみました。

 

 大麻取締法1条は「『大麻』とは、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいう。ただし、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品を除く。」と定義しています。
  このように、大麻取締法で規制される『大麻』は、あくまでも『植物』としての大麻草及びその製品になります(以下、大麻・大麻草を「大麻」と総称します。)。
 大麻の主成分とされるTHC(テトラヒドロカンナビノール)とCBD(カンナビジオール)のうち、THCには、幻覚等の精神作用があり健康被害等を引き起こすおそれがあることから、大麻の栽培や所持等は、大麻麻取締法違反により厳しく規制されてきました(一方、大麻の成熟した茎や種子にはTHCがほとんど含有されないため、成熟した茎や種子は規制の対象外とされていました。)。
  その一方で、大麻取締法には、大麻の使用自体を処罰する規定がありませんでした。
  

 このような現状に対し、令和5年12月13日、大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律が公布されました。
  これらの法律を所管する厚生労働省医薬局長発出の同日付け通達によれば、この法改正の趣旨は、「医療及び産業の分野における大麻草の適正な利用を図るとともに、その濫用による保健衛生上の危害の発生を防止するため、大麻草から製造された医薬品の施用を可能にするための規定の整備(筆者注①)、大麻等の施用罪の適用等に係る規定の整備(②)、大麻草の栽培に関する規制の見直しに係る規定の整備(③)等の措置を講ずる」ためである、とのことです。
  このうち、上記①及び③の規定の整備の肝は、日本ではこれまで禁止されていた大麻を原料にした医薬品の使用を認め(①)、かつ、医薬品の原料を採取する目的での大麻栽培を認める(③)方向での大麻取締法の改正になります。

 

 他方、上記②、つまり、大麻等の施用罪の適用に係る規定の整備については、大麻取締法の改正ではなく、麻薬及び向精神薬取締法(以下、「麻薬取締法」といいます。)の改正というアプローチで法改正がなされました。
  すなわち、麻薬取締法が使用等を禁止する「麻薬」(2条「別表第一に掲げる物」)にTHCを追加することで(別表一№42、№43)、その使用を規制したということになるのです。
  つまり、法は、大麻由来のTHCという有害物質そのものに着目し、これを麻薬と認定して使用等を規制することで、大麻の濫用防止を目指しているということになります。

 

 これまで、THCと類似成分の「合成大麻」が世に出回り、健康被害などを引き起こすなど、社会問題となってきました。
  これらの合成大麻は、既に医療品医療機器法(正式名称は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」)の指定薬物として、規制対象とされ、その使用等が禁じられています。
  例えば、代表的な合成大麻であるHHC(ヘキサヒドロカンナビノール)については、令和4年3月7日に指定薬物と指定され、同年3月17日以降、その使用等が禁止されています。
  また、最近、健康被害が問題とされた「大麻グミ」に含まれていた、HHCH(ヘキサヒドロカンナビヘキソール)も、令和5年11月22日に指定薬物と指定され、同年12月2日以降、その使用等が禁止されています。
  その上、厚生労働大臣は、令和5年12月の記者会見で、HHCHと類似成分の物質をまとめて指定薬物として規制対象にする「包括指定」を行う方針も明らかにしてます。
  このように、THCと類似成分の合成大麻については既に使用等が禁止されているのに、その元祖ともいえるTHCの使用自体が野放しにされていたことは、本末転倒といわざるを得ませんから、今回の法改正は、時代の要請にかなったものといえます。

 

 大麻は、日本でも、古来より水引き等の工芸品の原料として重用されてきた歴史があり、現在でもトチギシロという無毒化された大麻の栽培が許可された地域があり、工芸品の原料として使われている実績があります。
  また、海外において大麻が治療薬として使われていたことも事実ですから、日本でも、その有効成分を医療用に用いる方向に舵を切ったことは、これまた時代の要請にかなったものといえるでしょう。

 

  筆者は、今回の法改正により、大麻という植物の栽培等に関するルールは大麻取締法が規制し、大麻由来のTHCという有害物質の規制については麻薬取締法が規制するというふうに、二つの規制の柱を打ち立て、大麻の有効利用を促進するとともに、大麻の濫用を防止するという国の施策が良い方向に向かうことを期待しています。

以上  

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★