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イギリス刑事法紹介⑭~自白の証拠能力~

2024.01.04ブログ

起訴前の身体拘束期間が最大23日という長期間に及ぶ日本の刑事手続においては、起訴前の取調べにおいて被疑者が意に沿わない虚偽の自白をしてしまう事例が少なくなく、自白の証拠能力が争われることも珍しくありません。日本の刑事訴訟法では、自白に任意性が認められない場合に証拠能力が否定されることになります(刑事訴訟法322条)。過去の多くの著名事件においても、自白の任意性が大きな争点となることがありました。
 現在のイギリスの刑事実務では、起訴前の身体拘束期間が1日で終わることが多いため、虚偽自白の問題は、日本の刑事手続と比べて問題になるケースは少ないのではないかと考えられます。
 ただし、イギリス法においても、意に沿わない虚偽の自白が起訴前に行われてしまった場合を想定し、自白の証拠能力に関する立法の定めがされています。
 まず、裁判所は、自白が抑圧(oppression)により行われた場合、あるいは、自白の信用性を失わせるような状況で取調べが行われた場合には、自白を証拠から除外しなければならないとされています(section 76(2) of Police and Criminal Evidence Act 1984)。前者の「抑圧」には、拷問や非人道的な扱いが含まれています。また、後者には、被疑者に休憩を与えなかったり、利益誘導を行うことなどが当たると考えられています。このような事情が認められる場合には、裁判所は自白を証拠から除外する義務を負います。
 また、仮に、これらの要件に当てはまらず、裁判所にそのような義務までは認められない場合にも、裁判所の裁量により、正義に反すると考えられる場合には、自白を証拠から除外することができます(section 78 of Police and Criminal Evidence Act 1984)。具体的には、取調べ時に黙秘権の告知を怠るなど、取調べに関する重大な違法があるような場合に、裁判所の裁量により自白が証拠から除外されると考えられています。

※本稿におけるイギリス法の説明は、イングランド及びウエールズ圏内において適用される法規制に関するものです。

弁護士/英国弁護士 中井淳一
https://japanese-lawyer.com/

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★