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イギリス刑事法紹介⑬~犯人識別手続~

2023.12.19ブログ

刑事事件においては、犯人の同一性が問題となることは少なくありません。そのような場合、犯人の顔を見た目撃者が、複数の写真の中から犯人を選び出して、犯人を特定する供述(犯人識別供述)をすることがあります。
 イギリスの刑事手続においては、こうした犯人特定の過程(identification procedure)において、捜査機関が取るべき措置を定めるルールが存在します(Coda D of Police and Criminal Evidence Act 1984)。現在のイギリスの実務では、目撃者に容疑者や他の人物の映像を見せて犯人識別供述を得ることが多いようです。その場合には、容疑者の他に少なくとも容姿の似た8名の人物の映像を見せること、容疑者に顕著な特徴(顔の傷や特徴的な髪型等)がある場合には、その部分が含まれない映像を見せることなどが求められています。また、目撃者に示す容疑者以外の人物の映像については、事前に弁護人(solicitor)に提供されなければならず、弁護人は映像の選択について意見を述べることができます。
 その後の刑事裁判において、被告人の犯人性が争点となった場合、弁護人は、検察官が提出した犯人識別証拠(identification evidence)について、証拠から除外するよう求めることができ、その根拠として上記のようなルールに重大な違反があることを指摘することができます。
 最終的に証拠から除外するか否かという点には、裁判所の裁量が認めらており、上記のルールに軽微な違反があったからといって、直ちに証拠から除外されるわけではありません。ただし、犯人識別手続に関して捜査機関が取るべきルールが明確に定められており、その違反が証拠からの除外という結果をもたらしかねないという点は、捜査機関に対して犯人識別手続の適正さを担保させるための枠組みとして有効と考えられます。 

※本稿におけるイギリス法の説明は、イングランド及びウエールズ圏内において適用される法規制に関するものです。

弁護士/英国弁護士 中井淳一
https://japanese-lawyer.com/

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★