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覚醒剤密輸事件の量刑判断

2023.11.21ブログ

2023年11月 
弁護士 菅 野 亮

1 覚醒剤密輸をした場合の罰条

 千葉県成田市所在の成田国際空港では、覚醒剤を日本に密輸しようとして、入国時の税関検査で発覚し、逮捕される事件が多数あります。
 事情を知らずに密輸組織に利用され、覚醒剤の認識等がないという理由で釈放される事件もありますが、起訴される場合は、覚醒剤取締法及び関税法違反で起訴されます。
 適用法令は、覚醒剤の営利目的輸入について、覚醒剤取締法41条2項、1項違反であり、輸入禁制品輸入未遂について、関税法109条3項、1項、69条の11第1項1号です。
 航空機の旅客による密輸事件では、起訴されるのが運び役であることが多く、ほとんどの事例で有期懲役刑及び罰金刑が選択されています。また、覚醒剤は没収されます。
 以下、いくつかの裁判例の実際の量刑をみてみます。

2 実際の密輸事件の量刑

① 千葉地裁令和5年7月18日
  懲役17年
  罰金900万円
 (求刑 懲役18年、罰金900万円)

 この事件では、「覚醒剤の量が約24キログラムと大量」であることが量刑を重くする理由とされています。やはり、量が多ければ、刑が重くなる傾向があるように思われます。
 また、この判決では、被告人が「覚醒剤であることを明確に認識」していたことや「積極的かつ主体的に重要な役割を果たした」ということも指摘されています。
 量刑傾向については、「本件は同種事案(覚醒剤営利目的輸入、共謀共同正犯、10キログラム以上)の中では、重い部類に位置づけられる。」と判示されています。

 

② 千葉地裁令和5年7月14日
     懲役11年
     罰金400万円
 (求刑 懲役14年、罰金600万円)

    この事件では、「覚醒剤は、約7.9キログラムと相当に多量」と指摘されています。
 判決では、「被告人は、密輸組織から遺産が受け取れると欺されて利用され、引くに引けない状況になって本件犯行に及んでしまった側面があり、従属的立場であった」とされていますが、そのことが量刑上、どの程度、刑を軽くする事情として評価されたかは分かりません。
 量刑傾向については、「5000グラムから10000グラムの覚醒剤を運び屋として営利目的輸入した同種事案の中で、中程度の部類に位置づけられるというべき」と判示されています。

 

③ 千葉地裁令和5年7月7日
       懲役8年6月
       罰金350万円
   (求刑 懲役12年、罰金500万円)

 この事件は、覚醒剤1661グラムを輸入しようとした事件です。
 量刑理由として、「被告人が日本に持ち込んだ覚醒剤が日本国内に拡散した場合の害悪の大きさや、被告人が、覚醒剤の運搬役という旅客携帯型の覚醒剤密輸にとって必要不可欠な役割を担ったことからすると、被告人の責任は重い。また、日本に持ち込むものが覚醒剤であることを確定的に認識した上で、自らの意思で、報酬欲しさから本件密輸に加担したことは、強く非難されなければならない。他方で、被告人の役割は、密輸計画全体からみると、従属的で、代替可能なものであったといえる。」と、一般的事項のみが判示されており、量刑傾向についても、「同種事案の量刑傾向を参照した上」としか記載されておりませんので、量刑判断のプロセス及び個別の量刑事情がどのように評価されているのかは、よく分かりません。

 

④ 千葉地裁令和5年6月16日
    懲役7年
    罰金300万円
  (求刑 懲役11年、罰金500万円)

この事案は、覚醒剤約1.8キログラムを密輸しようとした事案です。
 この事案も、被告人が欺されていた経緯は、次のように認定され、量刑上も考慮すべきとされています。
「証拠上、組織側の人間であるAらは、B銀行のロゴが印刷されるなどした「資金引渡命令認可」などというもっともらしい書面まで使って被告人をだまし、運び屋として利用しようとしていたことが伺われ、組織の者に引き込まれて利用された面は否定できない。被告人においても、完全に騙されたわけではなく、未必的な限度での故意は認定できるが、組織側が立てた犯行計画に引き込まれた従属的な共犯であったという点は、量刑上、考慮すべきである。」
 その上で、「本件犯行は、同種事案(覚醒剤営利目的輸入、共犯、組織的、1~5キログラム、運び屋)の中で、中間より軽い部類に位置付けられる。」と判示して、上記の刑が選択されています。

 

⑤ 千葉地裁令和5年6月14日
    懲役8年
    罰金250万円
  (求刑 懲役11年、罰金300万円)

 この事案は、覚醒剤の密輸量は、「少なくとも2kg前後の覚醒剤成分が含有されている」とされています。
 また、「被告人が本件犯行に及ぶに当たり、具体的に報酬を約束されていたとか、何らかの経済的見返りがあったとまでは証拠上認定することはできず、被告人が供述するように、背後の犯罪組織に対する恐怖感があった可能性は否定できない。」と認定されています。
 量刑傾向については、「本件は、同種事案(営利目的覚醒剤密輸、運び屋、運搬した覚醒剤の量が1~5kg、前科なし)の中で中程度よりやや軽い事案」とされています。

 

⑥ 千葉地裁令和5年5月26日
      懲役9年
      罰金400万円
  (求刑 懲役13年、罰金600万円)

 この事案は、約3939グラムの覚醒剤を密輸しようとした事案で、「航空機手荷物型としては多量であり、これが量刑判断の中心となる。」と判示されています。
 また、「被告人は、密輸組織の構成員に恋愛感情を利用されてエチオピアに行き、日本への渡航当日になって、これに応じなければ別れるという話を仄めかされつつ、本件覚醒剤の隠し入れられた本件SCを日本に運搬するよう依頼された。被告人は、熟慮する時間的余裕もない状況で本件犯行に誘導されており、恋の弱みに付け込まれた点に同情の余地がある。」と指摘されています。
 その上で、量刑傾向等をふまえて「覚醒剤の営利目的輸入、実行共同正犯、薬物量:1000gから5000gまで、地位:運び屋、前科:すべてなしの条件で量刑分布を見ると、懲役刑については、「9年以下の懲役」をピークとして両側に分布が広がる傾向が読み取れる。本件は、薬物量が前記量刑分布の中では上位に位置する量であるから、被告人に同情すべき点もあることや、従属的な役割にとどまることを考慮しても、犯情の点から、本件は、懲役8年6月から9年6月までの幅に属すると評価できる。」と判断されています。

 

上記の裁判例をみると、覚醒剤の密輸では、
① 密輸しようとした覚醒剤の量に応じた量刑データベースの量刑傾向が参照される
② 欺されたり、恋愛感情を利用して犯罪に巻き込まれた点は、量刑判断において、酌むべき事情とされつつも、大きく刑を減じる事情とまでは評価されない
③ 必ず相当高額の罰金刑が併科される
ことが分かります。

以上

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★