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判例紹介(令和4年11月21日最高裁判決)

2023.04.25ブログ

弁護士 虫本良和

 令和4年11月21日、最高裁(第一小法廷)は、被告人が、自宅で妻の首を絞めて殺害したとされる殺人被告事件について、被告人を有罪とした原判決(令和3年1月29日東京高裁判決)を破棄し、原審に差し戻すとの判決を言渡しました。

 平成21年に裁判員裁判が開始されて以来、第一審の有罪判決を控訴審が破棄して逆転無罪を言渡したケースは一定数存在します。また、第一審の無罪判決を控訴審がひっくり返して有罪にしたものを、さらに最高裁が逆転させて無罪を言い渡したといったケース(最高裁第一小法廷平成24年2月13日判決)も存在しました。しかし、第一審及び控訴審がいずれも有罪としていた判決を、最高裁が破棄する判断を示したのは初めてであったため、この判決は報道でも大きく取り上げられました。

 

 この事件では、第一審(平成31年3月6日東京地裁判決)から、事件性(犯人が被告人かどうかではなく、そもそも事件(犯罪)が発生したのかどうか。)が争点となっており、被告人は、妻が首をつって自殺した可能性があるとして無罪を主張していました。しかし、第一審も控訴審も、自殺の可能性を否定したうえで、被告人が犯人であると認定して有罪判決(懲役11年)を言い渡していました。

 第一審判決は、被害者である妻が、左前額部を負傷し出血していたことを前提にして、負傷後に自殺を図ったとすると、現場の血痕付着箇所が寝室、洗面所、階段等の合計15か所にとどまっているのは説明が困難であること(「現場血痕の不整合」)等を根拠に、自殺の可能性を否定していました。

 その後、控訴審で新たな証拠を取調べた結果、現場には更に13か所の血痕が存在する可能性が明らかになったことから、控訴審の判決では、「第1審判決の前提は客観的事実に反し誤りである」から「現場血痕の不整合を指摘したことは、客観的事実及び経験則等に反して不合理である」として、第一審判決の判決理由には誤りがあるということを認めたのでした。ところが、控訴審判決は、自殺の主張を前提とすると被害者である妻は負傷後に傷を手で拭う或いは顔前面に血液が流れるはずであるのに、そのような血液の付着や痕跡(「顔前面の血痕」)がないという理由(第一審判決とは別の理由)によって自殺の可能性を否定し、有罪であることに変わりはないので、第1審判決の結論には誤りはないという判断をしていたのでした。

 このような経緯で被告人側が上告して、最高裁の判断を求めていたところ、最高裁は、「原審において、(妻)の顔前面の血痕の有無や、それと本件自殺の主張との関係について、審理が尽くされたとはいい難く、(妻)の両手に血液の付着やその痕跡がなく、血液を拭うなどした物も見当たらないことと併せて、(妻)の顔前面の血痕がないことを挙げ、本件自殺の主張は客観的証拠と矛盾するとした原判決の判断は、原審の証拠関係の下では、論理則、経験則等に照らして不合理であるといわざるを得ない。そうすると、原判決には、審理を十分に尽くさなかった結果、重大な事実誤認をしたと疑うに足りる顕著な事由があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであって、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。」と判示しました。

 今回の最高裁の判決は、あくまで原判決を「破棄」しただけであり、無罪であるという認定まではせず、審理が十分に尽くされていないことを理由に、事件を高裁に「差し戻す」という判断をしています。

 今後、高裁は最高裁が指摘した問題点を踏まえて、改めて判決を言渡すことになります。

 

(最高裁URL)

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=91536

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★