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死刑弁護を考える②(最高裁平成27年2月3日決定)

2023.01.31ブログ

弁護士 菅 野  亮

1 最高裁平成27年2月3日決定

最高裁は、平成27年2月3日に、死刑の判断に関する重要な決定を2つ出しています。
今回は、その2つの決定のうち、死亡した被害者が1名ではあるものの、殺人前科がある事件で、死刑か無期懲役かが問題となった事例を検討します。

最高裁平成27年2月3日決定(最高裁判所第2小法廷決定/平成25年(あ)第1127号、以下「平成27年決定」といいます。)の主文は「本件各上告を棄却する」というシンプルなものです(事案は、住居侵入,強盗殺人被告事件です。)。

しかし、平成27年決定は、死刑が問題となる事件の量刑判断や評議の在り方を判示した重要な決定です。

平成27年決定は、裁判員裁判で行われた第1審(東京地判平成23年3月15日)の死刑判決を破棄して無期懲役とした控訴審(東京高判平成25年6月20日)の判断を是認しました。

そして、職権で以下の判断を示しました。

2 事案に関する評価

平成27年決定は、次のように述べて、被告人の刑事責任は誠に重いと評価しています。

「被告人は,手っ取り早く自由になる金銭を欲し,包丁を用意して強盗目的で被害者方に侵入した上,就寝中の被害者に対し,いきなり首に包丁を突き刺して確実に即死させたものである。被告人は,被害者を見付けた段階では強固な殺意を抱き,前記のとおり,冷酷非情な態様で被害者を殺害した。本件は,重大かつ悪質な犯行といわざるを得ず,被害者の遺族の処罰感情が極めて厳しいのも十分理解できる。また,被告人は,妻を刺殺し,幼少の二人の子を殺害しようとして自宅に放火し,娘一人を焼死させたという殺人,殺人未遂,現住建造物等放火の罪を犯し,懲役20年の刑に服した前科がありながら,出所した後半年で本件に及んだものである。被告人の刑事責任は誠に重いというほかない。」

3 死刑の科刑が是認される条件

平成27年決定は、被告人の刑事責任は誠に重い、と述べた後に、「死刑の科刑が是認されるためには,死刑の選択をやむを得ないと認めた裁判体の判断の具体的,説得的な根拠が示される必要があ」ると判示しました。その理由は、次のとおり示されています(筆者が重要だと思う部分に下線を引いています。)。

「刑罰権の行使は,国家統治権の作用により強制的に被告人の法益を剥奪するものであり,その中でも,死刑は,懲役,禁錮,罰金等の他の刑罰とは異なり被告人の生命そのものを永遠に奪い去るという点で,あらゆる刑罰のうちで最も冷厳で誠にやむを得ない場合に行われる究極の刑罰であるから,昭和58年判決で判示され,その後も当裁判所の同種の判示が重ねられているとおり,その適用は慎重に行われなければならない。また,元来,裁判の結果が何人にも公平であるべきであるということは,裁判の営みそのものに内在する本質的な要請であるところ,前記のように他の刑罰とは異なる究極の刑罰である死刑の適用に当たっては,公平性の確保にも十分に意を払わなければならないものである。もとより,量刑に当たり考慮すべき情状やその重みは事案ごとに異なるから,先例との詳細な事例比較を行うことは意味がないし,相当でもない。しかし,前記のとおり,死刑が究極の刑罰であり,その適用は慎重に行われなければならないという観点及び公平性の確保の観点からすると,同様の観点で慎重な検討を行った結果である裁判例の集積から死刑の選択上考慮されるべき要素及び各要素に与えられた重みの程度・根拠を検討しておくこと,また,評議に際しては,その検討結果を裁判体の共通認識とし,それを出発点として議論することが不可欠である。このことは,裁判官のみで構成される合議体によって行われる裁判であろうと,裁判員の参加する合議体によって行われる裁判であろうと,変わるものではない。
そして,評議の中では,前記のような裁判例の集積から見いだされる考慮要素として,犯行の罪質,動機,計画性,態様殊に殺害の手段方法の執よう性・残虐性,結果の重大性殊に殺害された被害者の数,遺族の被害感情,社会的影響,犯人の年齢,前科,犯行後の情状等が取り上げられることとなろうが,結論を出すに当たっては,各要素に与えられた重みの程度・根拠を踏まえて,総合的な評価を行い,死刑を選択することが真にやむを得ないと認められるかどうかについて,前記の慎重に行われなければならないという観点及び公平性の確保の観点をも踏まえて議論を深める必要がある。
その上で,死刑の科刑が是認されるためには,死刑の選択をやむを得ないと認めた裁判体の判断の具体的,説得的な根拠が示される必要があり,控訴審は,第1審のこのような判断が合理的なものといえるか否かを審査すべきである。」

これまでの最高裁の判断でも示されている価値判断ではありますが、平成27年決定においても、死刑は、「あらゆる刑罰のうちで最も冷厳で誠にやむを得ない場合に行われる究極の刑罰であるから,昭和58年判決で判示され,その後も当裁判所の同種の判示が重ねられているとおり,その適用は慎重に行われなければならない」と判示されています。なお、同日付の別の決定(平成25年(あ)第1729号)でも全く同じ表現で判示されています。

4 死刑と無期懲役の分岐点

平成27年決定は、死刑の選択をした第1審について、次のような疑問があると判断しました(下線は筆者が引いたものです。)。

○殺害の計画性について

「殺意が強固で殺害の態様等が冷酷非情であり,その結果が極めて重大であること」を指摘している。殺害された被害者が1名の事案においても,死刑を選択することがやむを得ないと認められる場合があることはいうまでもなく,本件が重大かつ悪質な事案であることも前記1のとおりである。しかしながら,本件は,被害者方への侵入時に殺意があったとまでは確定できない事案であり,殺害について事前に計画し,又は当初から殺害の決意をもって犯行に臨んだ事案とは区別せざるを得ない。早い段階から被害者の死亡を意欲して殺害を計画し,これに沿って準備を整えて実行した場合には,生命侵害の危険性がより高いとともに生命軽視の度合いがより大きく,行為に対する非難が高まるといえるのに対し,かかる計画性があったといえなければ,これらの観点からの非難が一定程度弱まるといわざるを得ないからである。」

○殺人前科について

「第1審判決は,その他特に重視すべき事情として,『2人の生命を奪った殺人の罪等で懲役20年に処された前科がありながら,金品を強奪する目的で被害者の生命を奪ったこと』を挙げているところ,これは,被告人に殺人罪等による相当長期の有期懲役の前科があることの指摘にほかならない。しかしながら,人を殺害した罪で有期懲役に処された前科を有する者が,その刑を受け終わった後に1名を殺害する強盗殺人に及んだ事案については,死刑が選択された事案と,無期懲役が選択された事案が存在することからもうかがわれるとおり,有期懲役の前科があってその服役後に再度の犯行に及んだ場合の,再度の犯行に対する非難の程度については,前科と再度の犯行との関連,再度の犯行に至った経緯等を具体的に考察して,個別に判断せざるを得ないものというべきである。これを本件についてみると,本件強盗殺人という自己の利欲目的の犯行である点や犯行の経緯と,第1審判決が重視する前科の内容,すなわち,口論の上妻を殺害し,子の将来を悲観して道連れに無理心中しようとした犯行とは関連が薄い上,被告人は,刑の執行を受け終わり,更生の意欲をもって就職するも前科の存在が影響して職を維持できず,自暴自棄となった末に本件強盗殺人に及んだとみる余地があるのであって,本件強盗殺人の量刑に当たり,前記のような前科の存在を過度に重視するのは相当ではない。」

5 まとめ

平成27年決定は、上記のとおり、当初から殺害を予定していたといえるような殺害の計画性がなく、懲役20年と判断された殺人前科はあるが、前科の事案と本件事件の違いなどを検討し、前科の存在を過度に重視できないとして、死刑を選択した第1審の判断について、「死刑の選択をやむを得ないと認めた判断の具体的,説得的な根拠を示したものとは言い難い」としています。

死刑事件の弁護に関しては、先例の集積を分析し、死刑選択がやむを得ないといえるかどうかという視点で、計画性の有無や前科の意味を検討しなければならないといえます。

以上

 

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★