お知らせ・ブログnews & blog

千葉県千葉市の弁護士事務所 法律事務所シリウス > お知らせ・スタッフブログ > ブログ > 死刑弁護を考える①(最高裁平成27年2月3日決定)

死刑弁護を考える①(最高裁平成27年2月3日決定)

2023.01.17ブログ

弁護士 菅 野  亮

1 最高裁平成27年2月3日決定

最高裁は、平成27年2月3日に、死刑の判断に関する重要な決定を2つ出しています。
今回は、その2つの決定のうち、死亡した被害者が1名ではあるものの、複数の前科や多数の余罪(ただし、殺人前科や殺人の余罪はありません。その点が、同じ日に出たもう1つの決定と大きく異なる点です。)がある事件で、死刑か無期懲役かが問題となった事例を検討します。

最高裁平成27年2月3日決定(最高裁判所第2小法廷決定/平成25年(あ)第1729号、以下「平成27年決定」といいます。)の主文は「本件各上告を棄却する」というシンプルなものです(事案は、住居侵入、強盗強姦未遂、強盗致傷、強盗強姦、監禁、窃盗、窃盗未遂、強盗殺人、建造物侵入、現住建造物等放火、死体損壊事件で、最も重大な強盗殺人事件が「松戸事件」と表現されています。)。

しかし、平成27年決定は、死刑が問題となる事件の量刑判断や評議の在り方を判示した重要な決定です。

平成27年決定は、裁判員裁判で行われた第1審(千葉地判平成23年6月30日)の死刑判決を破棄して無期懲役とした控訴審(東京高判平成25年10月8日)の判断を是認しました。

そして、職権で以下の判断を示しました。

2 事案に関する評価

「被告人の量刑判断の中心となる松戸事件は,殺害の態様が被害女性の胸部を包丁でほぼ続けざまに2回突き刺し,更に同女が死亡する直前又は直後に首を包丁で2回傷つけ,胸部を1回突き刺すというものであって,執ようかつ冷酷非情で強固な殺意に基づく犯行である。被害女性の死体を焼損して犯跡を隠蔽することを企て,マンションの被害女性方居室に放火した点も危険性が高く悪質である。松戸事件以外の犯行も重大,悪質なものであり,殊に前記第1の1(2)(イ)ないし(オ)の各犯行は,生命身体に重篤な危害を及ぼしかねず,被害者らが受けた被害も深刻である。被告人は,累犯前科のみならず,強盗致傷,強盗強姦の同種前科があるにもかかわらず,直近の服役を終えてから3か月足らずの間に本件各犯行に及んだ。松戸事件の被害女性の遺族及び松戸事件以外の事件の被害者らの処罰感情が極めて厳しいこと,被告人が反省を深めているとはいえないことも指摘できる。被告人の刑事責任は誠に重いというほかない。」

まず、平成27年決定においても、第1審や控訴審が取り上げた量刑事情を評価し、「被告人の刑事責任は誠に重い」としています。

 
3 死刑の科刑が是認される条件

平成27年決定は、被告人の刑事責任は誠に重い、と述べた後に、「死刑の科刑が是認されるためには,死刑の選択をやむを得ないと認めた裁判体の判断の具体的,説得的な根拠が示される必要があ」ると判示しました。その理由は、次のとおり示されています(筆者が重要だと思う部分に下線を引いています。)。

「刑罰権の行使は,国家統治権の作用により強制的に被告人の法益を剥奪するものであり,その中でも,死刑は,懲役,禁錮,罰金等の他の刑罰とは異なり被告人の生命そのものを永遠に奪い去るという点で,あらゆる刑罰のうちで最も冷厳で誠にやむを得ない場合に行われる究極の刑罰であるから,昭和58年判決で判示され,その後も当裁判所の同種の判示が重ねられているとおり,その適用は慎重に行われなければならない。また,元来,裁判の結果が何人にも公平であるべきであるということは,裁判の営みそのものに内在する本質的な要請であるところ,前記のように他の刑罰とは異なる究極の刑罰である死刑の適用に当たっては,公平性の確保にも十分に意を払わなければならないものである。もとより,量刑に当たり考慮すべき情状やその重みは事案ごとに異なるから,先例との詳細な事例比較を行うことは意味がないし,相当でもない。しかし,前記のとおり,死刑が究極の刑罰であり,その適用は慎重に行われなければならないという観点及び公平性の確保の観点からすると,同様の観点で慎重な検討を行った結果である裁判例の集積から死刑の選択上考慮されるべき要素及び各要素に与えられた重みの程度・根拠を検討しておくこと,また,評議に際しては,その検討結果を裁判体の共通認識とし,それを出発点として議論することが不可欠である。このことは,裁判官のみで構成される合議体によって行われる裁判であろうと,裁判員の参加する合議体によって行われる裁判であろうと,変わるものではない。
そして,評議の中では,前記のような裁判例の集積から見いだされる考慮要素として,犯行の罪質,動機,計画性,態様殊に殺害の手段方法の執よう性・残虐性,結果の重大性殊に殺害された被害者の数,遺族の被害感情,社会的影響,犯人の年齢,前科,犯行後の情状等が取り上げられることとなろうが,結論を出すに当たっては,各要素に与えられた重みの程度・根拠を踏まえて,総合的な評価を行い,死刑を選択することが真にやむを得ないと認められるかどうかについて,前記の慎重に行われなければならないという観点及び公平性の確保の観点をも踏まえて議論を深める必要がある。
その上で,死刑の科刑が是認されるためには,死刑の選択をやむを得ないと認めた裁判体の判断の具体的,説得的な根拠が示される必要があり,控訴審は,第1審のこのような判断が合理的なものといえるか否かを審査すべきである。」

これまでの最高裁の判断でも示されている価値判断ではありますが、平成27年決定においても、死刑は、「あらゆる刑罰のうちで最も冷厳で誠にやむを得ない場合に行われる究極の刑罰であるから,昭和58年判決で判示され,その後も当裁判所の同種の判示が重ねられているとおり,その適用は慎重に行われなければならない」と判示されています。

そして、「死刑が究極の刑罰であり,その適用は慎重に行われなければならないという観点及び公平性の確保の観点からすると,同様の観点で慎重な検討を行った結果である裁判例の集積から死刑の選択上考慮されるべき要素及び各要素に与えられた重みの程度・根拠を検討しておくこと,また,評議に際しては,その検討結果を裁判体の共通認識とし,それを出発点として議論することが不可欠である」と裁判例の集積の位置付け等に関する判示をしています。

 
4 死刑と無期懲役の分岐点

平成27年決定は、上記のように、「裁判例の集積」から、「死刑の選択上考慮されるべき要素及び各要素に与えられた重みの程度・根拠を検討」し、死刑を選択した第1審に次のような疑問があるとしています。

○殺害行為に計画性が認められないこと

「殺害された被害者が1名の強盗殺人の事案において,自己の利欲等を満たす目的で人の生命を奪うことを当初から計画していなかった場合には,死刑でなく無期懲役が選択されたものが相当数見られる。これは,早い段階から被害者の死亡を意欲して殺害を計画し,これに沿って準備を整えて実行した場合には,生命侵害の危険性がより高いとともに生命軽視の度合いがより大きく,行為に対する非難が高まるといえるのに対し,かかる計画性があったといえなければ,これらの観点からの非難が一定程度弱まるといわざるを得ないからである。したがって,松戸事件が被害女性の殺害を計画的に実行したとは認められない事案であることは看過できない。」

○経緯・動機が確定できない場合に行為態様の悪質性を考慮するにも限界があること

「殺害直前の経緯や殺害の動機を具体的に確定できない以上,その殺害態様の悪質性を量刑上重くみることにも限界があるといわざるを得ない。」

○殺人事件以外の事件の悪質性等を考慮するにも限界があること

「第1審判決は,その他の事情として,松戸事件以外の事件の悪質性や危険性,被告人の前科,被告人の反社会的な性格傾向が顕著で根深いことを指摘するけれども,松戸事件以外の事件については,いずれも人の生命を奪おうとした犯行ではないこと」

○ 反社会的な性格傾向という事情は一般情状であり二次的な考慮要素であること

「犯罪行為に相応しい責任の程度を中心としてされるべき量刑判断の中では,被告人の反社会的な性格傾向といった一般情状は,二次的な考慮要素と位置付けざるを得ないこと」

○ 前科や殺人事件以外の事件を考慮するにも限界があること

「被告人の前科にしても,人の生命を奪おうとまでした事犯はなく,無期懲役やこれに準ずる長期の有期懲役に処されたものもないことからすれば,松戸事件以外の事件の悪質性や危険性,被告人の前科,反社会的な性格傾向等をいかに重視しても,これらを死刑の選択を根拠付ける事情とすることは困難である。」

5 まとめ

平成27年決定は、上記のとおり、死刑判決を下した第1審の判断について、「死刑の選択をやむを得ないと認めた判断の具体的,説得的な根拠を示したものとはいえない」としました。
 
本件事件の被告人の犯行態様(及び他の重大事件を多数犯していることや複数の前科があること等)は、悪質なものと評価されることはやむを得ない事案ではありますが、死刑という人の生命を奪う究極の刑罰を科すことが是認されるためには、過去の先例の集積を踏まえ、死刑の選択がやむを得ないと認めた裁判体の判断が具体的,説得的に示されることは当然に必要であり、死刑の選択が問題となる事件に関する判断の在り方等を示した平成27年決定は、死刑が問題となる事件の判断や評議の在り方に関して重要な判断を示したものといえます。

以上

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★