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医師の法的責任とリスク⑤ ~医師の秘密漏示罪が問われた事例~

2022.11.22ブログ

令和4年10月
弁護士 金子達也

 医師等の特別な職業に就く者に対してだけ問われる犯罪というものがあります。
  例えば、刑法134条1項は、「医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する」と定めています(秘密漏示罪)。
  また、刑法160条は、「医師が公務所に提出すべき診断書、検案書又は死亡証書に虚偽の記載をしたときは、3年以下の禁錮又は30万円以下の罰金に処する」と定めています(虚偽診断書作成罪)。

 

 このような犯罪類型に関し、医師が実際に秘密漏示罪で有罪とされた事例を紹介します。
  事案は、裁判所から精神鑑定を嘱託された医師(鑑定医)が、フリージャーナリストに鑑定資料を閲覧させ、その一部を交付した事件で、その鑑定医は秘密漏示罪で起訴されました。
  これに対し、鑑定医側は、鑑定は「医行為」ではないので、鑑定資料は「医師」の業務上知り得た秘密とはいえない(秘密漏示罪の構成要件に該当しない)として、無罪を主張しました。
  しかし、第1審は、鑑定医側の主張を排斥して鑑定医を懲役4月執行猶予3年の有罪とし(奈良地裁H21.4.15判決)、第2審も、鑑定医側の控訴を棄却しました(大阪高裁H21.12.17判決)。
  鑑定医側は上告しましたが、最高裁は、「医師が、医師としての知識、経験に基づく、診断を含む医学的判断を内容とする鑑定を命じられた場合には、その鑑定の実態は、医師がその業務として行うものといえるから、医師が当該鑑定を行う過程で知り得た人の秘密を正当な理由なく漏らす行為は、医師がその業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏示するものとして刑法134条1項の秘密漏示罪に該当する」と判示して上告を棄却し(最高裁H24.2.13判決)、鑑定医側の有罪が確定しました。

 

 筆者も、この鑑定医が、鑑定資料をフリージャーナリストに閲覧させたり交付する行為は、不適切であったと感じています。
  しかし、反面、この行為を「医師」であるが故に問われる「秘密漏示罪」で有罪としたことが、理にかなっていたのかには疑問を感じています。
  この鑑定が精神鑑定ではなく物理鑑定であり、鑑定人が医師ではなく物理学者(大学教授)であった場合と、本件とを比較した場合に、鑑定資料の秘密を保持すべきであるという要請は、どちらも変わらないように思えます。
  それにも関わらず、この鑑定医が、医師であるが故に秘密漏示罪に問われたというのであれば、その理由は、精神鑑定は医師が独占すべき「医行為」であったからであると認定すべきと考えますが、最高裁はその判断を避けているように感じ、諸手を挙げて賛成とは言いかねるのが、筆者の正直な心境です。

 

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★