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被告人の属性と刑事責任の重さ

2022.08.19ブログ

2022年8月

弁護士 菅 野  亮

1 被告人の属性と刑事責任
 基本的に、量刑は、犯した犯罪行為への法的非難の程度によって決まり、特定の職業についていたことをもって刑を重くする事情とはなりません。

 しかし、警察官がその職務と関連して犯罪を犯した場合には、刑を重くする事情となるとされています。例えば、警察官がその職務執行中に、犯罪現場で窃盗行為をしたり、留置中の女性に対して性犯罪を犯した場合、通常よりも重い非難が妥当だとされます。これは、警察官が、違法行為をしないという高い職業倫理と義務が求められている中で、職務に関する犯罪行為が行われた場合、特に違法性が高いと評価されるからです。

 事件と関係なく、例えば、裁判官、検察官、警察官などがプライベートの場で、交通事故を起こしても、普通の人と同じ責任非難でよいという考え方もあります(筆者も個人的にはそのような考え方です。)。
 他方で、そのような職務と関係ない犯罪についても、「純然たる私人の立場による犯罪の場合であるが、とりわけ裁判官、検事、警察官など犯罪抑止を含め法の適用・執行に関わる職業の場合は、法を知悉し、かつ、法を自ら遵守することを強く求められる立場にあるから、それにもかかわらず刑罰法令に触れる行為に出た点で、一般国民よりも強い非難を受けることは免れないであろう」(大阪刑事実務研究会編『量刑実務体系 一般情状等に関する諸問題』115頁)とする立場もあり、実際に、そのように判示する裁判例もありますので(東京地判平成13年8月27日)、特定の高い職業倫理が求められる職業の場合、その責任非難は重いとされることになります。

2 被告人が暴力団に所属していることと刑事責任の重さ
 理論的には、被告人が暴力団に所属していることだけで、刑を重くする事情とすることは憲法14条や21条に抵触するものであり許されないと考えられています。
 ただし、実際の裁判例では、被告人が暴力団である場合、刑を重くする事情とされることが多いのが実情です。
 まず、事件自体が、暴力団の組織的犯行である場合、反社会的組織による組織的犯行ということで、違法性や行為の危険性等も高まり、犯情として重く処罰されます。
 また、被告人が、暴力団に所属していた場合、犯罪行為との親和性の高さや遵法精神の希薄さ等から、反省が不十分であるとか、再犯可能性が高いという意味で重く処罰されることも多いです。

 実際の裁判では、被告人が暴力団であることが、どのように事件に関係したのか、検討が不十分な裁判例もあるように思われます。被告人が暴力団に所属していても、どのような立場で、どの程度の期間、暴力団に所属していたか等を丁寧に考えた上、事件と被告人が暴力団であることの関係性を検討し、その関係性の濃淡によって、責任非難を重くする事情といえるのかどうかを検討する必要があるように思います。
 また、刑を重くする事情になる場合でも、刑の重さは基本的には、当該犯罪行為の危険性によって決まるものですから、特別予防目的で、加重に重い量刑をすべきではありません。

3 弁護士の横領
 残念ながら、弁護士が顧客等から預かった金員を横領する事件があります。
 金額の多寡にもよりますが、起訴され、実刑判決となった事例も多いです。
 以下の事例も、被害金額からすれば、実刑という選択もあり得た事例ですが、被害弁償や被害者が被告人を許していたこと等を考慮し、執行猶予付の判決となっていますが、弁護士であった事情は、刑を重くする事情として考慮されています。

・執行猶予になった事例(大阪地判令和3年5月12日)
「当時弁護士であった被告人が,依頼者からの預り金や,自らが会計担当を務めていた弁護士会会派の銀行預金から,合計約3,279万円を着服した事案」について、上記判決では、「本件各犯行は,いずれも業務上横領事件の中で悪質性の高いものといわざるを得ない」としつつも、「被告人は,本件各事件のいずれについても被害額全額を弁償し,判示第2及び第3の各被害者は被告人を許して執行猶予付きの判決を求めていることからすると,被告人に対しては,社会内での更生の機会を与える余地がある。そこで,被告人が判示各事実をいずれも認め,反省の意を示していること,本件各犯行の内容からすれば当然のことであるが,被告人は弁護士会から退会命令を受けるなどの不利益を受けていること,被告人の父親が法廷で今後の被告人の監督を誓約していること等も踏まえた上,被告人を主文の刑に処し,その執行を猶予することとした。」と判示しています(求刑4年)。

 この判決では、弁護士である事情について、「弁護士という社会的地位に対する被害者の信頼を裏切る形で行われたもの」、「弁護士一般に対する社会の信頼を失墜させるおそれをもたらした点も看過できない」などと指摘されています。

以上

 

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★