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未決勾留日数の本刑算入の基準について

2021.12.03ブログ

1 未決勾留日数の本刑算入
刑事裁判の判決の言渡しにおいては,「被告人を懲役7年に処する。未決勾留日数中200日をその刑に算入する。」というように,未決勾留日数の本刑算入がされます。

未決勾留日数とは,勾留状執行の日から,判決言渡の前日までの間に現実に拘禁されていた日数のことです。勾留状執行の日から,判決言渡の前日までに300日かかったとすれば,算入できる未決勾留日数の上限は,300日ということになり,一部算入説を採用する実務では,その一部が本刑に算入されています。

上記の例でいえば,刑務所で服役する期間は,7年と主刑で宣告されているわけですが,すでに200日分は服役したものと扱われ,7年から200日を引いた年数が実際の服役期間となります。

執行猶予付き判決の場合,未決勾留日数を算入しない判決も多いです。
死刑判決では,未決勾留日数を算入しませんが,無期懲役の判決には,未決勾留日数の本刑算入が行われています。無期懲役刑は,後に恩赦等で,減軽されることがあるからと説明されています(『条解刑法〔第4版〕』47頁〔弘文堂・2020〕)。

2 未決勾留日数の本刑算入の根拠
未決勾留日数の本刑算入は,刑法21条が規定します。
刑法21条は,次のように規定していますが,これは,裁判所の裁量により,刑事手続上
勾留期間を宣告された本刑に算入することを認めた規定です。

(刑法21条)
「未決勾留の日数は,その全部又は一部を本刑に算入することができる。」

3 全部算入説と一部算入説
算入の基準としては,原則として未決勾留日数全部を算入すべきであるとする全部算入説と,当該捜査や公判に必要な期間の勾留は,被告人が甘受すべきものであり,これを超える期間の勾留が本刑に通算されるという一部算入説とがあります。
実務では,一部算入説で運用されています。

一部算入説の中でも,いわゆる司法研修所方式と審理必要日数控除方式があるとされています(大渕敏和「未決勾留について」『植村立郎判事退官記念論文集〔第二巻〕』11頁〔立花書房・2011〕)。

審理必要日数控除方式は,原則的に被疑者勾留の期間は捜査必要期間と考え,起訴後の勾留の期間から審理必要期間を控除した残りの日数を本刑に算入するという方式です。

司法研修所方式は,審理必要日数控除方式と基本的な考えは共通ですが,分かりやすく計算できるため,以下のように計算式を利用します。

〔司法研修所方式〕
①審理に数回以内の開廷を要した事件については30日又は現実の第1回公判までの日数,②審理に数回を超える開廷を要した事件については,第2回以降の公判の開廷日数に10を乗じた日数を①に加算した期間を控除し,残りを本刑に算入する。

(起訴後の未決勾留日数)-(30+〔公判回数-1〕×10)

この司法研修所方式は,1回結審するような単純な事件では,簡便な基準として使い勝手もよいものです。他方,裁判員裁判対象事件など,公判前整理手続に付された事件では,そのままこれを適用することはできません。

公判前整理手続に付された事件では,次のような基準も提唱されています(和田真「15 刑事訴追に必然的に伴う負担と量刑」90頁,脚注14〔判タNO1269・2008〕)。

「起訴後の未決勾留日数-〔20日又は30日+公判前整理手続期日の回数(ただし,実質的準備を要するものに限る。)×5日+裁判員選任に要する日数+公判期日の日数+他に必要となった日数〕=算入すべき未決勾留日数」

弁護人からすれば,公判前整理手続のうち,裁判員選任に要する日数は,法律上当然に必要な期間ですから,未決勾留日数として算入されることは当然だと思われますし,検察官が証拠開示等に時間がかかる事件もありますので,準備にかかる期間については,基本的に未決勾留日数として算入されるべきだと考えます。また,自白事件だと●日程度,否認事件なら●日程度というように類型的に準備に必要な日数をカウントするやりかたもあると思いますが,事件ごとに準備に必要な期間は異なりますので,実情に照らして判断されるべき問題だと思われます。

4 未決勾留日数と量刑不当
未決勾留日数の上限は,勾留状執行の日から,判決言渡の前日までの間に現実に拘禁されていた日数のことですから,記録を確認すれば,その日数を計算することができます。
実務では,一部算入説にたった運用が行われいますが,全くの自由裁量ではなく,算入が妥当とはいえない場合には,量刑不当になるとされています。
したがって,控訴審を担当する弁護人は,主刑だけでなく,未決勾留日数の算入が合理的か否かも確認する必要があります。

審理の経過や期日間整理手続に要した期間を考慮しても算入した未決勾留日数が著しく過少であるとして量刑不当により一審判決を破棄した裁判例があります(東京高判平成24年7月17日,東京高等裁判所判決時報刑事63巻1~12号167頁)。

「第1点のBの証人尋問の延伸は,被告人の体調不良,Bの裁判および体調不良によるものであるから,このような事情による延伸期間については,打合せや尋問準備等に要した日数を除き,これを審理に通常必要であった日数とみなすことはできないし,被告人ないし弁護人に特段の帰責事由を認めることもできない。第2点の期日間整理手続については,期日の回数,整理された争点および証拠の内容等を考慮し,その手続に通常必要であったと考えられる期間を控除すべきであり,手続期間の全てを控除することは相当とはいえない。確かに,本件の期日間整理手続を実施するに至った経過をみると,原審弁護人の主張立証には五月雨式と批判されるような面がなかったわけではなく,また,主張内容自体も,別件における不当な捜査方法を主張し,その立証を通じて本件における不当な捜査を立証しようとするもので,本件との関連性に乏しい主張立証であったといえ,結果としても原審弁護人が申請した証人3名は採用されていない。しかしながら,もとより原審弁護人は審理の遅延を目的として上記のような訴訟活動を行ったものでもなく,このような原審弁護人の主張立証をとらえて,審理長期化をもたらした被告人側の帰責事由とし,審理に通常必要な日数を超えて控除の対象として考慮することも相当とはいい難い。」

一般的には,「理由に乏しい否認を行い,合理性に欠ける立証を行うことのほか,不合理な弁護人の解任や,正当な理由のない不出頭を繰り返すなどしたり,偽証等の各種罪証隠滅工作に及ぶなどして,迅速で的確な審理を妨害すること」があると,算入日数を短縮する事情とされています(大渕敏和「未決勾留について」『植村立郎判事退官記念論文集〔第二巻〕』14頁〔立花書房・2011〕)。

しかし,結果的に裁判所の目からみれば必要性に乏しい主張・立証であったとしても,当事者が必要だと考えてこれを行っている以上,安易に審理の遅延を目的としていると認定することは妥当ではありませんし,どうしても弁護人との間で方針等の食い違いがあり信頼関係が構築できずに解任等することもあり得るので,弁護人が交代したという事情だけをもって審理の引き延ばしだと考えることは許されないと思われます。

上記裁判例でも,「原審弁護人は審理の遅延を目的として上記のような訴訟活動を行ったものでもなく,このような原審弁護人の主張立証をとらえて,審理長期化をもたらした被告人側の帰責事由とし,審理に通常必要な日数を超えて控除の対象として考慮することも相当とはいい難い」とされているように,裁判所の慎重な判断が求められます。

以上 

 

2021年10月   
弁護士 菅 野  亮 

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★