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冗談のつもりだったのですが,インターネットで氷砂糖を「覚醒剤」だと嘘を言って売ったことが警察にばれてしまいました。私は何か罪に問われますか?

よくあるご質問刑事事件

1 麻薬特例法により処罰される危険があります
  国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例に関する法律(以下,「麻薬特例法」といいます。)という法律があるのをご存じですか?
  この法律は,日本の薬物規制法(覚せい剤取締法,麻薬及び向精神薬取締法,大麻取締法,あへん法)によって厳しく取り締まられている「規制薬物」について,これらを密売することによって得られる薬物犯罪収益を剥奪し,かつ,規制薬物に係る不正行為を「助長」する行為等の防止を図るために作られた法律です。
  そのため,実際に覚醒剤などの規制薬物を使ったり持ったり売ったりしていなくても,それを「助長」するとみなされる行為は,麻薬特例法によって犯罪とされ,処罰の対象になっているのです。
  具体的には,薬物犯罪を犯す意思をもって,ある物品を規制薬物として譲渡,譲受,所持等した者は,たとえその物品が規制薬物ではなかったとしても,麻薬特例法8条2項により処罰される危険があります(法定刑は2年以下の懲役又は30万円以下の罰金。「として譲渡罪」等と言われる犯罪類型)。
  また,薬物犯罪等の実行等を,公然,あおり,又は唆(そそのか)した者も,麻薬特例法9条によって処罰される危険があります(法定刑は3年以下の懲役又は30万円以下の罰金。「あおり唆し罪」等と言われる犯罪類型)。
  この点,氷砂糖を「覚醒剤」だと嘘を言って売る行為は,「ある物品を規制薬物として譲渡」する行為とみられて,麻薬特例法8条の疑いをかけられる危険があります。実際には,それが冗談だとわかってもらえれば,「薬物犯罪を犯す意思」があったとまでは認定されず,起訴はされないと思いますが,警察の捜査の対象とされ,下手をすれば逮捕されてしまうリスクはあるので,注意しましょう。
  一方,氷砂糖を「覚醒剤」だと嘘を言って売る行為は,それを信じて覚醒剤を買おうとする客を誘引する行為であり,覚醒剤を譲り受ける行為は明らかな薬物犯罪ですから,この行為は,薬物犯罪等の実行を「あおり,唆した」ものとして,麻薬特例法9条で処罰される危険があります。
  とても危険な行為と言えますので,冗談であっても,このようなことは止めておいたほうが良いです。

2 もし代金を受け取ってしまったら詐欺罪(刑法246条)で処罰される危険があります
  安価な氷砂糖を,高価な覚醒剤と偽って売り,高額のお金を受け取ってしまった場合は,刑法246条の詐欺罪で処罰される危険があります(法定刑は10年以下の懲役)。
  この点に関しては,覚醒剤の売買などの「不法の原因」のために払ったお金の返還は求めることはできない(民法708条)とされることから,詐欺罪も成立しないという考えもあります。
  しかし,裁判所の立場は,犯罪目的等の「不法の原因」のために払ったお金であったとしても,現実に騙されてそのお金を払わされた以上,詐欺罪は成立するという考えに立っています(東京高裁昭和45年1月19日判決等)ので,詐欺罪で処罰されてしまう危険は否定できません。
  もっとも,この場合には,覚醒剤と誤解して氷砂糖を買った人にも,麻薬特例法8条の「として譲受罪」が成立して処罰される危険があるので,敢えてその危険を冒してまで警察に被害届を出す人は少ないとも考えられます。

3 捜査の「入口」として利用される危険があります
  麻薬特例法8条(として譲渡等)及び9条(あおり唆し)の罪は,犯罪捜査の「入口」として利用される危険があります。
  これらの犯罪類型は,捜査対象者が実際に規制薬物を所持等していなくても犯罪が成立し,麻薬特例法9条(あおり唆し)に至っては,インターネット上の書き込み(例えば「一緒に覚醒剤を使ってみませんか?」という書き込み)だけで犯罪が成立してしまうのです。
  そこで,捜査の現場では,まずは,これらの犯罪類型による捜索差押許可状を得た上で,対象者の身体や住居の捜索を強行して覚醒剤等を発見ようとする捜査手法が,良く使われているのです。
  例えば,覚醒剤を使用した性行為の愛好者が,インターネットを通じて同じような嗜好の仲間を募っていたとしましょう。これに対し,捜査機関は,サイバーパトロールでそのインターネット上の書き込みを把握し,書き込んだ対象者に対する麻薬特例法9条違反による捜索差押許可状を得て,その身体や居宅の捜索を強行し,あわよくば覚醒剤等を発見しようと虎視眈々と狙っているのです。
  弁護士としては,そのような捜査手法が許されて良いのかという疑問を持っていますが,明らかな違法捜査とまではいいにくく,覚醒剤等の「動かぬ証拠」が発見されてしまえば,最早打つ手はないというのが現状です。
  読者の中にはいないと信じていますが,少しでも心当たりがある方は,注意してください。

2020年10月19日

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★