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外国人受刑者は刑務所でどのような生活をしているのでしょうか?

よくあるご質問外国人事件

⑴ 外国人受刑者の定義について
  外国人(日本国籍を有しない方)と一口に言っても,その中には,永住者・特別永住者等の資格で日本で長く暮らしてきた方(当然,日本の文化・風習や言語にも習熟されていると思われます。)もいれば,単に一時的に来日していたに過ぎない方もいます。
  ですから,刑務所に収容する場合に,これらの方々をひとくくりに「外国人」として,日本国籍を有する他の受刑者と区別して処遇することは,合理的ではないと考えられています。
  他方,日本では,受刑者処遇の中核は「矯正処遇として行う作業」,「改善指導」及び「教科指導」であるとされており,これらの矯正処遇は,個々の受刑者の資質及び環境に応じて適切な内容と方法で実施しなければならないとされています(個別処遇の原則)。
  そのため,各刑事施設では,心理学等の専門的知識を活用して受刑者の資質及び環境調査を行い,その調査結果を踏まえて受刑者の「処遇指標(脚注1)」が指定されています。
  この処遇指標の区分のひとつに,「日本人と異なる処遇を必要とする外国人」という区分があり,「F」という符合が付されています。そして,この区分に指定された受刑者は,「F指標受刑者」と呼ばれています。
  より具体的に言うと,F指標受刑者には,①日本語の理解又は表現能力が不十分であるか,②日本人と風俗習慣を著しく異にすることにより,処遇上の特別の配慮を有する外国人受刑者が区分されているのです。
  そこで,以後,外国人受刑者という場合は,F指標受刑者(脚注2)を指すことにします。
  ちなみに,処遇指標の区分には,「A(犯罪傾向が進んでいない者)」「B(犯罪傾向が進んでいる者)」という犯罪傾向の進度に対応した区分や,「W(女子)」という受刑者の性別に対応した区分もあります。
  ですから,例えば,犯罪傾向が進んでいない外国人受刑者は「FA指標」に区分され,更にその受刑者が女性である場合には「WFA指標」に区分されることになります。

⑵ 外国人受刑者の割合について
  令和元年版犯罪白書では,平成15年末現在の区分別受刑者人員が公表されているので紹介します(令和元年版犯罪白書第3編,第1章,第4節,3)。
  この資料によると,A指標に区分された受刑者総数15,333人(うち女子1,551人)のうち2,776人(うち女子206人)がFA指標に区分され,B指標に区分された受刑者総数29,316人(うち女子918人)のうち234人(うち女子11人)がFB指標に区分されています。
  つまり,AB指標を合わせた受刑者総数で比較すれば,その約7パーセントがF指標に区分されていることがわかります。
  他方,B指標に区分された受刑者数のみで比較した場合,FB指標に区分された受刑者の割合は1パーセント未満と低くなります。これは,B指標に区分される受刑者のほとんどが累犯者(犯罪を繰り返し刑務所への入出所を繰り返す受刑者)である反面,F指標に区分される受刑者のほとんどは日本への在留資格がないことから,日本国内で犯罪を繰り返すこと自体が想定できないからだと思われます。

⑶ 外国人受刑者の処遇について
  少し古い資料になりますが,平成16年版犯罪白書では「犯罪者の処遇」についての特集が組まれており,そこでは外国人受刑者の処遇の実情もまとめられていますので紹介します(平成16年版犯罪白書第5編,第3章,第2節,3)。
ア 収容施設
  F指標受刑者を収容する刑事施設としては,昭和53年以降,府中刑務所及び横須賀刑務所(男子)と,栃木刑務所(女子)が指定されていました。
  その後,F指標受刑者の増加に伴い,平成8年には大阪刑務所,平成10年には8施設(札幌,黒羽,横浜,名古屋,神戸,和歌山,広島及び福岡の各刑務所),平成13年には7施設(福島,前橋,新潟,甲府,静岡,京都及び高松の各刑務所),平成15年には2施設(川越,奈良の各少年刑務所),平成16年には2施設(金沢,長崎の各刑務所)がそれぞれ追加され,平成16年当時には,男子刑務所21施設と,女子刑務所2施設(栃木,和歌山の各刑務所)にF指標受刑者が収容・処遇されていました。
イ 言 語
  平成16年5月31日時点で府中刑務所及び大坂刑務所に収容されているF指標受刑者997人について使用言語を調査したところ,使用言語数は府中刑務所で29言語,大坂刑務所では36言語に上っており,少数言語を使用する者も少なくないという結果が出ました。
  言語の多様化に対する対策としては,平成7年には府中刑務所に,平成9年には大坂刑務所に,それぞれ国際対策室が設置され,各種言語の専門職員が配置されて,それぞれの施設におけるF指標受刑者の処遇に携わっているほか,全国の施設に対する通訳,翻訳の共助や各国大使館の調整等の業務に当たっています。
  また,F指標受刑者に対する日本語教育も積極的に行われているようです。
ウ 居室及び日常生活
  かつては,F指標受刑者と他の受刑者との軋轢を避けるため,F指標受刑者については昼夜独居で処遇されることが一般的でした。
  しかし,平成16年5月31日現在の統計資料によると,府中刑務所に収容されていたF指標受刑者540人のうち,昼夜独居は56人に過ぎず,夜間(のみ)独居が341人,F指標以外の受刑者との雑居が64人いるなど,受刑者の状況に応じた柔軟な居室配分が行われているようです。
  また,刑務作業についても,平成16年5月31日現在において,府中刑務所における27の工場のうち,26の工場でF指標受刑者が就業するなど,その特性や意欲に応じて適切な工場に配置されているようです。
エ その他の生活等
  F指標受刑者に対しては,椅子及びベット等を必要とする生活習慣の者にはそれらの備品を整備するよう配慮がなされているようです(通常の受刑者は,畳敷きの床に布団を敷いて寝ます。)。
  また,F指標受刑者には,騒音その他施設管理上の支障のない限り,礼拝等の宗教行為を行うことが許され,そのために必要な用具の所持・使用も許されています。平成16年5月31日現在,府中及び大坂両刑務所を合わせて94人に,イスラム教の礼拝用マットの使用が許されていました。
  さらに,食事に関しては,食習慣や宗教上の戒律に応じて,可能な範囲で配慮がされています。平成16年5月31日現在,府中及び大坂刑務所におけるF指標受刑者合計997人のうち243人に食事内容の配慮がなされ,その内訳は,「豚肉抜き」が180人,「米飯に代えてパン食」が176人,「ベジタリアン食」が17人でした。
  また,イスラム教のラマダン月には,食事制限に関する配慮もなされているとのことでした。

【脚注】
1 かつては「処遇分類級」と呼ばれていましたが,平成18年5月24日に刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律が施行された後は,上記のとおり「処遇指標」と呼ばれるようになりました。
2 上記法律が施行される平成18年5月24日以前は,受刑者区分は「F級」などと呼ばれていましたが,内容的にはほぼ同じであるため,本稿では,時代にかかわらず呼称を「F指標」と統一します。

 

 

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★