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2 刑事裁判で精神鑑定のもつ重み及び精神科医と法曹の役割分担

2018.08.24ブログ

(1)精神鑑定の内容
精神鑑定では,裁判所から精神科医に対して,「精神障害の有無・程度,精神障害がある場合は事件に与えた影響の有無・程度・機序」を明らかにするよう依頼がなされます(検察官の鑑定嘱託の場合は,上記に加えて,参考意見として,責任能力の有無等についての意見も求められています。)。
鑑定書をみると,主文として,精神障害がある場合は,その診断名が記載され,事件との関係性などが記載されることになります。
鑑定書のボリュームは事件によって違いますが,心理検査や問診録がついているものは50頁前後あることが多く,重大事件の鑑定書になると100頁を超えるものもあり,読み応えがあるものとなっています。
(2)精神鑑定は裁判でどのように扱われるか
精神鑑定を行うのは精神医学の専門家ですから,裁判所もそれを尊重することが普通です。過去の裁判例では次のような判断がなされています。
「被告人の精神状態が刑法三九条にいう心神喪失又は心神耗弱に該当するかどうかは法律判断であつて専ら裁判所に委ねられるべき問題であることはもとより、その前提となる生物学的、心理学的要素についても、右法律判断との関係で究極的には裁判所の評価に委ねられるべき問題である」(最決昭58年9月13日)
責任能力判断が法的判断である以上,最終的に裁判所が評価すべきものであるということはさほど異論はないと思います。他方,責任能力判断の前提となる「生物学的,心理学的要素」(精神障害の有無・程度,弁識能力,制御能力のことをいいます。)まで,裁判所が自由に決められ,精神科医の意見が全く尊重されないとしたら,精神鑑定をした医師からすれば,不満も残るところです。
実務的に,精神鑑定が尊重されないということではありませんが,実際にどのレベルで精神鑑定の結果を尊重すべきかについて,参考となる最高裁判決が出されています。
「生物学的要素である精神障害の有無及び程度並びにこれが心理学的要素に与えた影響の有無及び程度については,その診断が臨床精神医学の本分であることにかんがみれば,専門家たる精神医学者の意見が鑑定等として証拠となっている場合には,鑑定人の公正さや能力に疑いが生じたり,鑑定の前提条件に問題があったりするなど,これを採用し得ない合理的な事情が認められるのでない限り,その意見を十分に尊重して認定すべきものというべきである。」(最判平20年4月25日)
平成20年の最高裁の判断により,「精神障害の有無及び程度並びにこれが心理学的要素に与えた影響の有無及び程度」については,原則として,その意見を十分に尊重して事実認定を行うべきことが確認されました。
他方,精神鑑定結果が尊重されない場合として,①鑑定人の公正さや能力に対する疑いが生じた場合,②鑑定の前提条件に問題があった場合などが例示されています。
裁判所が慎重に鑑定人を選任している現状では,①の問題が生じることはそれほど多くないと思いますが,②については,検察官が鑑定人に提供する資料が不足していたり,鑑定人が,被告人の述べる妄想を現実のものと誤解したりすることはあり(例えば,両親から虐待されていた事実はなく,そのこと自体が被害妄想であったにもかかわらず,虐待が現実にあったものとして鑑定してしまうことなどがあります。),弁護人としても慎重に鑑定内容の信用性を判断する必要があります。
(3)法曹と精神科医の役割分担
近似,東京医科歯科大学の岡田幸之先生が,精神鑑定を8ステップに分けて,①~④までが医学的判断,⑤~⑧までは法的判断であるという考え方を報告し(岡田幸之「責任能力判断の構造と着眼点」精神神経学雑誌115巻10号),法曹(特に裁判所)においても,その考え方をベースに争点整理や審理を行うことが増えています。
この8ステップの考え方については,特に,③の疾病診断の持つ重みを失わせるのではないか,あるいは生物学的要素の持つ重みが軽視されるのでないかといった精神科医側からの批判もありますが,裁判実務には浸透しつつある考え方です。実際の裁判でも,精神科医に対して,「責任能力についてどうお考えですか?」などという質問をしている例はほとんどなく,精神科医の尋問でも①~④を主に聞くという実務になりつつあります。
8ステップが正しいかどうかは今後の議論を待つ必要がありますが,少なくとも精神科医の専門領域がどこまでなのかという視点は重要だと思われます。

 【8ステップ】
 ① 情報の収集
 ② 精神症状の認定
 ③ 疾病診断
 ④ ②と事件の関連性
 ⑤ 善悪判断・行動制御への焦点化
 ⑥ 弁識能力・制御能力として特定
 ⑦ ⑥の程度の法的評価
 ⑧ 法的結論

弁護士 菅野亮

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★