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精神鑑定が必要な理由及び実情

2018.08.17ブログ

(1)精神鑑定を行う必要性
 刑法39条は,「心神喪失者の行為は,罰しない。心神耗弱者の行為は,その刑を減軽する。」と定めています。しかし,刑法に,「心神喪失」及び「心神耗弱」の意味を定義する規定はありません。過去の裁判例では,「心神喪失」等について,以下のように判断されています。
「心神喪失ト心神耗弱トハ孰レモ精神障碍ノ態様ニ属スルモノナリト雖其ノ程度ヲ異ニスルモノニシテ即チ前者ハ精神ノ障碍ニ因リ事物ノ理非善悪ヲ弁識スルノ能力ナク又ハ此ノ弁識ニ従テ行動スル能力ナキ状態ヲ指称シ後者ハ精神ノ障害未ダ上叙ノ能力ヲ欠如スル程度ニ達セザルモ其ノ程度著シク減退セル状態ヲ指称スルモノナリトス」(大判昭6年12月3日)
分かりやすくいえば,心神喪失とは,①精神の障害により,②弁識能力がない(違法性が認識できない),あるいは,③行動制御能力がない(違法性が意識できるとしてもその行為をやめることができない)状態です。この判例の定義によれば,心神喪失ないし心神耗弱を判断するためには,精神障害の有無や精神障害(ないしその症状)がどのように事件に影響したのか,検討する必要があります。
裁判官には,必ずしも精神医学の専門知識があるわけではありませんから,精神医学の専門家である精神科医に精神鑑定を依頼する必要がでてきます。
(2)精神鑑定の実情
被疑者もしくは被告人(以下「被告人」といいます。)に精神障害があり,精神障害が事件に影響したことが疑われる場合,法的非難が可能かどうかを判断するために,精神科医に鑑定をお願いすることがあり,それを「精神鑑定」といいます。
ここ数年,鑑定件数(特に起訴前に行う精神鑑定)は増えています。
理由は様々なものが考えられますが,裁判員裁判対象事件では,検察官が起訴前に念のために鑑定を行う,ということが精神鑑定が増えていることの原因の一つだと思われます。また,DSMやICDといった操作的診断基準が普及したことにより,以前よりも何らかの精神障害の診断名がつきやすい状況となり,通院歴等がある被告人が増えたこともあるかもしれません。
精神鑑定が問題となる診断名は,統合失調症が多いです。統合失調症以外では,うつ病,妄想性障害,覚せい剤精神病などがありますが,鑑定の結果,知的障害,発達障害やパーソナリティ障害といった診断名がつき,精神鑑定した結果,それらの障害が犯行動機・経緯等に影響したことが分かる場合もあります。
鑑定を依頼される医師は,ある程度経験のある精神科医で,臨床経験だけでなく,司法精神医学に精通した医師がなることが多いです。もっとも,地域によっては,人材が乏しいエリアもあり,特定の鑑定人にかなりの件数の鑑定が集中する事態も生じており,人材の育成が急務だと思われます。司法精神医学会では,精神鑑定のワークショップを開催し,実際の事例をもとにどのような鑑定をすべきかの意見交換等を行っています。
(3)捜査段階に行われる鑑定
捜査段階では,捜査機関が鑑定嘱託(刑訴法223条)を行います。具体的には,検察官が,裁判所の許可を得た上で2ヶ月から3ヶ月間,鑑定のための期間(鑑定留置といいます。)を設け,精神科医に鑑定を依頼することが多いです。
精神科医は,検察官から捜査資料を受け取り,問診等を行い,必要な知能検査・心理検査等を行った上で鑑定書を作成します。このような起訴前に行われる精神鑑定で,鑑定人が「心神喪失」との意見を述べる場合には,検察官は,起訴せずに,不起訴処分とすることが多いです(その後,事件によっては医療観察法に基づく申立てをすることになります。)。もちろん,検察官として,その鑑定意見に納得がいかなければ,改めて他の鑑定人に意見を求めることもあります。
また,上記と異なり,1日だけ簡単な問診や検査を行う簡易な精神鑑定もあります(簡易鑑定と呼ばれたりしています。)。しかし,あくまで,短時間の問診等しかない簡易な鑑定になりますので,判断に悩むようなケースでは,正式な鑑定を行う必要性がある,といった意見が述べられることもあります。
現在の実務では,重大事件,特に裁判員裁判対象事件で,過去に精神科への通院歴があったり,動機の理解が困難な事件については,精神鑑定が行われることが多いように思われます。
精神鑑定が行われることで,事件の原因となった精神障害が明らかになることもありますが,鑑定期間中も身体拘束されるケースが多いので,身体拘束期間が延びてしまうという弊害があります。
(4)起訴後の鑑定(再鑑定)
起訴後,弁護人側から鑑定請求を行うこともあります。
特に,検察官の起訴前鑑定が行われていない場合や,起訴前鑑定の内容に問題がある場合に,鑑定請求を行うことになります。
なお,裁判所に鑑定請求を求めず,弁護人が直接,精神科医に鑑定を依頼することもあり,これを私的鑑定とか当事者鑑定とかいっています。私的鑑定では,被告人との面会条件が限られており,検査等を十分に行うことができないという問題点があります。

弁護士 菅野亮

★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★