財産開示期日不出頭罪(民事執行法213条違反)の刑事処分の実情等
2026年1月
弁護士 菅 野 亮
第1 財産開示に関する法改正による罰則の強化
民事訴訟では、裁判で勝訴判決を得ても、債務者が任意の弁済を拒む場合、債権の回収ができません。そのような場合、債権者は、強制執行を検討することになりますが、強制執行するには、債務者が保有している具体的な財産を特定して強制執行する必要があります。債務者が保有する具体的な財産が不明な場合、債権者は、まず、債権者がどのような財産を保有するか調査します。債務者が、自宅の不動産を所有しているか法務局で登記事項証明書を取得したり、債務者が有する預貯金の有無等を調査するために、第三者からの情報取得手続をとったり(民事執行法204条~)、財産開示の手続を申し立てることになります(民事執行法196条~)。
財産開示手続では、裁判所において、財産開示期日が開かれ、申立人と債務者が期日に出頭し、債務者は、財産開示期日において、債務者の保有する財産について陳述する義務を負います。
財産開示手続は、平成15年の民事執行法改正により創設された制度ですが、債務者が期日に出頭しないことも多く、その利用は低調でした。利用が低調であることの理由の一つが不出頭に対する罰則の軽さ(旧法では、30万円以下の過料)があるとされ、令和元年の民事執行法改正では、罰則が「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」と強化されました(民事執行法213条1項5号及び6号)。
| (陳述等拒絶の罪) 第213条 次の各号のいずれかに該当する者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。 (一ないし四は省略) 五 執行裁判所の呼出しを受けた財産開示期日において、正当な理由なく、出頭せず、又は宣誓を拒んだ開示義務者 六 第199条第7項において準用する民事訴訟法第201条第1項の規定により財産開示期日において宣誓した開示義務者であつて、正当な理由なく第199条第1項から第4項までの規定により陳述すべき事項について陳述をせず、又は虚偽の陳述をしたもの |
第2 財産開示手続の出頭状況
筆者の個人的経験では、民事訴訟手続にも何ら応答なく不出頭であった債務者の場合、財産開示手続を申し立てても、なんら応答がないまま期日にも不出頭ということが多い印象です。もちろん、訴訟手続では応答がなかったのに、財産開示期日の前に裁判所に対して財産目録を提出したり、財産開示期日に債務者が出頭する場合もあります。
令和元年に改正された民事執行法が令和2年に施行され、財産開示手続の申立件数は、増えています。
統計では、新受件数で、平成30年(125件)、令和元年(105件)だったものが、新法施行後、令和2年(539件)、令和3(1151件)、令和4年(1566件)、令和5年(2365件)となっています。
また、統計では、財産開示期日への出頭率は、概ね40%から50%程度で、新法が施行された令和2年以降の出頭率は、令和2年(52.7%)、令和3年(53.6%)、令和4年(45.3%)、令和4年(42.4%)となっています。
第3 刑事処分の実情
筆者の契約している判例データベースを調査してみましたが、財産開示期日不出頭罪等により、正式に刑事裁判になっている事例は発見できませんでした。
財産開示期日不出頭罪の刑事処分については、不起訴になるか、あるいは、略式起訴された上での罰金刑になっていると思われます。
検察官が書いた論考では、「不出頭罪については、検察官の不起訴処分に対して、告発人から検察審査会(以下「検審」という。)への申立てがなされ、検審から起訴相当議決や不起訴不当議決が出される例が相次いでいる。」(京都地方検察庁検事大塚竜朗「民事執行法違反事件(財産開示期日不出頭等)の捜査上の留意事項について」、捜査研究2025年11月号〔東京法令出版〕)とされており、上記の論考では、検審の議決後に再捜査した結果、罰金10万円の略式処分が確定した事例が紹介されています。
不出頭罪については、刑事処分するためには、不出頭について「正当な理由」がないことや不出頭について故意があることが要件となりますが、その点については、債務者側の弁解に関する捜査が必要となるため、債権者側でも、債務者の平素の態度や郵便物の受領状況等の有益な情報を捜査機関に対して提供する必要があります。
財産開示不出頭罪の刑事処分が多くの場合、不起訴や罰金であれば、不誠実な債務者に対する制裁として不十分との考え方もできます。他方、捜査の過程で、警察官や検察官が債務者の取調べを行ったり、必要に応じて債務者の自宅の捜索差押を行うこともあります。そのような捜査の過程で、刑事処分を避けるために、債務者側から、債権者側に対して債務弁済の申し入れ等が行われる事例もあるようで、債権者による告発が1つのきっかけに債権回収につながる場合もあり得るため、資産を隠し持っていると思われるような不誠実な債務者に対して取り得る1つの手段といえると思われます。
以上
★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★




