英文契約書作成の実務⑥~No Waiver~
日本の契約書にはあまり見られない英文契約書特有の条項として、「No Waiver」条項があります。
この条項は、例えば、契約の一方当事者が、一度、契約上の権利を行使しないこと(例えば、相手方が履行期限を過ぎても、賠償を請求しないなど)があったとしても、その後の契約上の権利を放棄するものではないということを明確にする意味があります。
日本法での考え方からすると、これは、契約条項として定めるまでもない当然のこととして受け止められるかもしれません。契約で定められた権利がある以上、それを行使するかどうかは、権利者が都度決めることであって、一度その権利を使用しないからといって、その後の権利行使に影響するとは考えづらいためです。
一方、英米法では、「estoppel(禁反言)」と呼ばれる法理があり、契約上の権利を行使しないことが繰り返されると、その権利を放棄したと見なされることがあり得ます。
そのため、意図せず契約上の権利を放棄したと見なされることを避けるために、「No Waiver」の条項を定めて、仮に契約上の権利を行使しない場面があったとしても、その後の権利行使には影響しないことを明示することになります。
このように、「No Waiver」の条項は、一見当然のことを規定するだけのように思えますが、仮に契約解釈に英米法のルールが適用されるような場合には、権利放棄を防ぐ実質的な意味を持ち得ることになります。
弁護士/英国弁護士 中井淳一
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★千葉市の弁護士事務所『法律事務所シリウス』より★